ハッカペルの足音 後編
「さぁ耳を澄ませ。音に耳を傾けろ。土を蹴る音、武器を抜く音、杖を振るう風の音」
あちらには裏切り者がいる。私はそうだとすぐに悟った。
しかし、裏切り者が数人いたところで軍勢は止められない。
「何をするつもりですか?」
妙に落ち着きを取り戻してしまい、穏やかに尋ねた。それでもポルッカは答えなかった。
「ラーヌヤルヴィ家は家臣共々、どこからの信頼も薄くてな。今まさに起きている戦闘でもまだ後方で茶を飲んでいる。
スヴェンニー特有の性格である身内に甘いというのは、結束が固いという事でもある。同族であっても信頼していなければ裏切ることはある。だが、家族を裏切るようなことはしない」
まるで自分の境遇に陶酔したような言い草で質問に答える意思などなく話を続けていた。
しかし、そのときだ。山が揺れるような音がした。戦場の大声とは異なる歌のような大声が山の上の方から聞こえ始めたのだ。
「ラーヌヤルヴィ家は貴族。つまり領地を持つ者。領地がある。自治領の中の一地域を管轄するということだ。そこには領民もいる。要するに兵士もいるということだ。そら、見えたぞ」
そう言うと別の偵察員がキューディラの回線に割り込んできた。
「カミーユ指揮官、連盟政府軍が後方から追い上げています! いえ、後方から攻撃を受けて、後方部隊が無理矢理前進させられています!」
「スヴェリア公民連邦の頃から脈々と受け継がれる戦う者たち。これぞ、ラーヌヤルヴィ家の誇る戦士たちハッカペルだ。
古代からあるビョルトゥンやベーセルクとは違うが、スヴェリアの誇る最強の戦士たちの一つだ。
北部辺境で馬は稀少でな。基本的にはトナカイ騎兵だが、戦闘においては移動手段としての側面が強い。
将を射んと欲すればまず馬を射よ、と言って馬を射られては元も子もない。無いというなら同じ速さで動き、同じ高さになれば良い。
そして彼らはどれほどの戦果を上げようとも、自ら騎士にはならないと宣言した」
「猛烈に前進させられています! 後方に何がいるのでしょうか!? まるで大きな脅威に追いかけられているようです!」
兵士の焦り裏返った声に混じり、その回線の声を全て押さえ付けるかのようにポルッカが鬨の声を上げた。
「さぁ頼もしき家臣たちよ。連盟政府軍と商会を叩き潰せ!」




