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ハッカペルの足音 前編

「今そのような余裕はありません」


「そのようだな。では、聞き流せ。だが話の前に一つすることがある」


 ポルッカは黙った。その代わりに三回ほど高音が聞こえた。

 上空を見上げると、黄色い閃光が三本ほど天へと昇っていった。


「何をした!?」


「狼煙だ。終焉のな」


「私たちが負けたと言いたいのか!?」


「だいぶ興奮しているな。言葉遣いが乱暴になっているぞ」


 ポルッカは姿勢を直したのだろう。キューディラ越しに衣擦れの音が聞こえた。


「臨時とは言え指揮官がそれではいけないな。現に押されているではないか。だが、話はこれからだ」


「そんな余裕は無い!」


 怒鳴ったがそのようなことも構わずにポルッカは悠々と話を始めた。


「ラーヌヤルヴィ家、私の家族は商会のどこにでもいる。

 行商隊(イフターハ)領地商(レビ)統計管理・(シャー)魔術研究部門(ローン)、ヴァーリの使徒、商会会計部門(イーシュ・ケリヨート)

 その全てにもれなく私の一族がいる。姓はラーヌヤルヴィではない者がほとんどだがな」


「最初から裏切るつもりだったのか」


「たった今、合図を送ったのだ」


「何の合図だ!? 答えろ!」


 ポルッカはどれだけ問いかけても私の質問には答えなかった。それどころか話を止めようともしないのだ。


「ヴァーリの使徒」


「それが何なんだ! 早く言え!」


「なぜ、私たちの神であるヴァーリが名前に据えられているか、知っているか?」


 その言葉に私は何かを感じた。黄金捜索以降に聞いたことがある。

 ヴァーリとは、スヴェリア神話における司法神でありラーヌヤルヴィ家の守護神。

 ラーヌヤルヴィ家は商会に頭を垂れ、スヴェリア連邦国の内乱が起きた。その商会が彼らを押さえ込む為にその名前を付けたのだ。


 何かの予感に言葉を失ってしまった。

 ポルッカは私の違和感など構わずに話を続けた。


「商会はミスを犯した。取り返しが付かぬほどの昔に、今となっては代え難いミス。重大で致命的なミス」


 今度は私からポルッカの言葉を待つように黙ってしまったのだ。


「それはヴァーリの使徒などと言う暗躍部門を作ったことだ。ラーヌヤルヴィ家はそこから商会に根を張った。深く広く、細部の一本まで根は全てラーヌヤルヴィ家の者だ」


「ポルッカ、まさか」


 彼女は勿体ぶり、結論については何一つ言っていない。だが、私の胸の内は膨らみだした。心臓がまるで大きくなっているかのようだ。

 それは紛れもない勝機から来るものだった。押されているにもかかわらず、勝機を見いだしてしまった。


「そうだな。ラーヌヤルヴィ家は裏切り者一族。裏切ることでスヴェンニーを守ろうとした影の一族。なんと言われようとも、私たちはスヴェンニーの、第二スヴェリア公民連邦国の護り手」


 キューディラ越しで何をしているのだろうか。両手を挙げて天に掲げてでもいるのだろうか。鼻から息を吸い込む音が聞こえた。

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