マルタン丘陵での戦い 第十三話
これまで何をしていたのだ! なぜまだここにいる!
あれだけの音が出たというのに、何故逃げていないのだ!
敵と味方の中間に容赦なく躍り出た鹿に驚き、横を通り抜けられた兵士は身体を押されてしまった。
その拍子にこちらのたった一発の引き金は握られてしまったのだ。
水の底のように静かだったユニオン兵の列に鞭を打つような音が響き渡った。その瞬間、堰を切ったように弾が放たれてしまったのだ。
タイミングが早すぎた。魔法使いたちを何人か行動不能にしたが、それ以上の成果は無かったのだ。
このままでは崩れてしまう。だが、銃撃は始まってしまった。
止めればかえって隙が出来てしまう。
「撃ち続けなさい!」と指示を出す声も度重なる発砲音に飲み込まれて誰にも聞こえていない。それでも銃撃は止むことは無かった。
魔法使いたちは前進速度を落とした。彼らの後方からは既に別の部隊が来ている。
おそらく銃を装備した兵士だ。雷管式の銃を装備している。どこの製品かは分からない。よって射程もクセも分からない。
魔法使いたちの波が収まると今度は思った通りに敵方からも発砲音が起き始めた。
いくつもの煙が上がるのが見えた。しかし、射程は僅かに及ばないのか、十ヤード先の地面を弾いている。
これなら前進できるかもしれない。しかし、進むにはまだ魔法使いがいる。下手に前に出れば魔法使いに攻撃される。
迷っている暇は無いが、こちらが押される速度が上がってきた。
攻撃を受け始める兵士さえも出始めた。
目の前で地面が弾けて顔に飛んできた土を手で払いのけた。やむを得まい。
「横列を維持したまま、発砲を続けて後退! 負傷者を最優先に救出!」
ユニオン兵たちに後退の指示を出した。ついに森にまで後退することになってしまった。
森の中へと入るとこちらは身動きが取りづらくなる。横一列をどうやって一本しか無い道へと流し込めば良いのか。
ダムへ戻って死守しなければいけない。ダムで籠城を行うべきか。
しかし、ダムに到達されてしまえば魔法でダムごと破壊される。それは避けなければいけない。
もはや――。
「そろそろか。おい、カミーユ・ヴィトー。私の話を聞け」
ポルッカがキューディラ越しに語りかけてきたのだ。




