マルタン丘陵での戦い 第七話
「魔力雷管式銃の部隊と魔法射出式銃の部隊で別れています」
「それぞれに練度は違うのですか?」
「いえ、どちらも等しく使い方の訓練は受けています。携行指示された銃が通し番号で違うだけです」
「わかりました。申し訳ないですが、部隊を再編してください。雷管式を持っている者をこちらに多めに回してください」
「魔法使いが相手なら、魔法射出式の方が良いと思いますが」
魔力雷管式の実戦での使用はこの兵士たちは初めてのようだ。
「あなた方は魔力雷管式銃の威力を知らない。魔法射出式銃は相手を雷鳴系の魔法でスタンさせることだけです。
亡命政府軍はまだ軍として未熟です。情報筋の話では軍構成員はエルフが中心で、戦闘時には魔法を使う可能性が極めて低いのです。つまり、魔法での攻撃に対処する方法も持ち合わせていないのです。
ですが、連盟政府・商会連合軍は本格的な魔法を駆使する戦闘員です。それは攻守に及びます。魔法攻撃によるスタンでの効果時間に明確な差が生じます。
魔法射出式銃は敵兵への傷害を目的としています。ですが、魔法だけではおそらく傷害すら困難になるでしょう。
私は共和国に入国した際に、魔力雷管式銃の威力をこの目で何度も見ました。威力を信じてください」
そう言って大佐殿の持つチャリントン・インダストリー製の小銃に掌を当てた。
ここで私はあえてその小銃の威力がどの程度かは言わなかった。兵士たちは敵兵殺害への条件付けが充分にされているが、言えばおそらく発砲率に影響が出る。
兵士の数は充分だが、多くは無い。空に向けて撃たずに、敵兵の眉間を狙って貰わなければいけない。
「わ、分かりました」
大佐殿は私が伝えなかったことがあるというのには気がついているようだ。しかし、強気に私が押し切り、それを言わせないようにした。
今この場では迷いは足を鈍らせる。指揮を執るように言われた私が迷えばこの兵士たちも行動が鈍る。
再編する時間は無く、既に二分されていた部隊間の武器を交換するだけに留まった。
山岳迎撃部隊は七対三で魔力雷管式銃が多く、亡命政府軍迎撃部隊は逆の比率となった。
次弾までが早い魔法射出式銃と威力重視の魔力雷管式銃でバランスがとれている――と思いたい。
足早に作戦位置へと移動していく兵士たちを見送ったあと、ポルッカから連絡が来た。
「連盟政府軍が分水嶺にだいぶ近づいている。そろそろ構えろ。
山岳での戦闘には不慣れな様子だ。先ほどの斥候に来た小隊と同じルートを一列で前進している。
だが、今度は数が多いぞ。五や十ではない。縦深が深いと言っていいのか。とにかく多くて最後尾が見えないほどだ」
「待ち伏せしているユニオン兵が対処できるほどの数で列を切りましょう。
新兵ばかりだが、殺人への条件付けは訓練されています。
前方はそのまま前進させて開けた場所へ誘導してユニオン兵が攻撃。後方は私たちで頭をしばらく押さえる。それを繰り返して流れを止めましょう」
「その後どうでるか。必ず順応してくる。出来て三分割だな」
「とにかくやりましょう。ある程度足を遅くすれば、相手側も作戦を練り直すために一度引くでしょう」




