マルタン丘陵での戦い 第二話
まず私が最後尾の一人を片付ける。前方へ逃げた四人を前方の二人が一人ずつ片付け、左右に散った残りを残りの二人が片付けると言う作戦にでた。
合図は私の行動である。足を掛けるのに手頃な枝の下を四人が通り抜けたので、私は枝に膝をかけ、それを軸に回転し最後尾の残り一人の首に捕まり絞め殺し、落ちた勢いで地面に仰向けに倒した。
低い姿勢になってしまえば草木と霧に隠れて姿を消すことが出来る。
僅かにした音に前方に四人がこちらを振り返った。最後尾が突然消えたことに気がつくと、一斉に顔に動揺が走った。そして、誰も声を堪えるようにして前方へと逃げ出したのだ。
それから霧の向こう側から口を塞がれてくぐもった微かな悲鳴と鈍い音がいくつか聞こえた。
「お見事」と上から全てを見ていたポルッカが言った。どうやら小隊全員を処理できたようだ。
「素晴らしい殺しっぷりだな。手際もよく躊躇も無く、そして何より素早い。だが、貴様らに騎士道精神は無いのか? 貴様自身、曲がったことは嫌いな性格と聞いていたが」
「イズミにもそれは言われましたね。ですが、ここ戦いの場において曲がったことなどありませんね。あくまで私自身の見解ですが。
戦いという殺し合う行為は、曲がる曲がらないではなく、生きるか死ぬかだけです。
死とは結果。殺しはそこに至る過程。人は誰の物であろうとも、その死を許容しません。自ら死ぬのは言語道断。そして、殺されることも許しません。死に方、殺し方に正しい方法などありません。
ですが、明らかな殺意を持って殺しに来た相手を殺すつもりで自らを守らなければ、死んでしまいます。防御の殺害ですね。
まるで言い逃れのようで嫌ですが、それは紛れもなく許容されない死を自らの手で持って回避する生存。
仕方なく、ではありません。私は生きたいのです。
名誉の為に戦って死ぬのは最高の栄誉というのは騎士の考え方。一方私にとっては、生きると言うことはどんな称号よりも高価な物」
「確かに、生きようとすることを止めにかかるような者は殺してもいい。それよりも、貴様はその偉大な騎士様ではないのかと問うている」
少し苛ついたように繰り返した。
「これは失礼。私たちは騎士ではないですよ」
回答が以外だったようだ。キューディラ越しに黙り込んだ。鼻から息を吸い込む音を拾っているのか、風が当たる音が聞こえる。
「協会の頭取の愛娘ではないのか? 生まれながらに貴族であり、戦いに馳せ参じ名を上げた者はみな騎士ではないのか?」
「少々偏見が強いようですね。あなたもこうして戦いに参じる貴族であるにもかかわらず、騎士ではないと思いますが?」
「私は騎士号ではなく、代わりに術士号を賜っている。いや、いた、だな。北公では貴族も称号ももはや過去のもの。だが、無くしてもその高潔な精神だけは受け継げと閣下は仰った」




