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マルタン芸術広場事件 第十五話

首を動かしてムーバリに確かめると、首を左右に振るだけで無視しろと返事が返ってきた。

俺が負傷者に気がついて何かを合図を送り始めたことに先頭を歩いていたクロエも気がついたようだ。一度止まるとこちらへ振り返って睨みつけてきた。


植え込みを隠れながらこのまま進むとなるとその男の前を通ることになる。俺はそれ以上は何も言わずにクロエの後を付いていった。


そして、その男の横に出ると男は気配に気付いて「誰か、いるのか」と咳き込みながら呼びかけてきた。


クロエもムーバリも無視したが、俺は立ち止まった。見つかるわけにはいかなし、誰だか分からないので呼びかけには答えなかった。

治癒魔法をかけようと杖をその男の方へ向けた。しかし、ムーバリは杖を握ると首を左右に振り下ろすように力を込めてきた。

目配せだけでそのくらいいだろうと尋ねたが、またしても首を左右に振った。


「誰でもいい。助けてくれ。死にたくないんだ。もう戦いたくない。何にもいらない。どこか遠くへ逃がしてくれ。目も見えないんだ、怖い。寒いんだ」


と再びうなり声を上げた。

無視できずにムーバリとクロエの方を見ると、仕方なさそうにため息を溢した。ムーバリも杖から手を離したのだ。

二人にすまない、と目配せをして治癒魔法を軽くかけてやった。


「ああ、ありがとう。まだ生きられそうだ。誰だか知らないが、暖かいなぁ。僕は魔力の流れに敏感なんだ。魔法を当てられるとその人の雰囲気がだいたい分かるんだ。目がもう見えないけど、たぶんあなたは優しい人だって分かる。でもどこかの戦場にいたんじゃないか? 微かに覚えがある……けど兵士ではないだろうな。どこかの衛生兵で、いつの間にか世話になったのかもな。はは、は」


泣いているようにか細い笑い声を上げていた。


「エリートだなんて言われて頑張ってきたけど、何もかもクソばっかりだった」


男は魔法の緑色の光を受けながらぶつぶつと何かを語り始めた。


「何がエリートだよ。魔力が高いだけでいい加減に集められた部隊なんか」


クロエはその男の話を聞くと次第に怪訝な表情をし始めた。


「もう分かってるんだよ。僕は北にも行った。そこそこの魔力とこの探知能力のおかげで運良く生き残ったけど、もうこの世界は魔法だけじゃダメなんだ。北公の武器はみんなどれも強い。それでしかも冷たい。飛んできた何かに魔法の痕跡が微かにあっても、どれも同じで人の心の感じがしないんだ。亡命政府軍の兵士もみんな冷たい武器を使ってくる。あんなのに敵うわけない。連盟政府は……もう……」


男は再び悲しそうな声になっていった。

だが、それを聞くと同時にクロエは杖を振り、治癒魔法をかけていた俺の杖を弾いた。

いきなり何をするのかと彼女の方を見ると、凄まじい剣幕で俺と男を睨みつけていた。

そして、首を左右に素早く振ったのだ。


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