マルタン芸術広場事件 第十二話
しかし、現在は連盟政府は押し留めつつあるが、今後どれほど攻勢を強めようとも、北公に屈するのは時間の問題。
大方、最終的にに連盟政府は妥協点を見いだして「これ以上の北公側の過剰な犠牲を避ける為に停戦の機会を与える。ルーア皇帝の身柄を引き渡せ」と負けを認めないような文言を送りつけて北公を怒らせるだけだろう。
(実際それで止めるとも思えない。北公がまだ武器を持っていたから攻撃した、とかイチャモンつけるだろう)。
どれも全て知っているはずだし、どうなるかも想定済みのはずだ。
そのうちどれかについてを聞いたところで、本当の目的は得られない。
何せ、ムーバリは共和国のスパイでもあるのだから。
だが、何れにせよ見つけ次第即刻殺すと言う選択肢はないはずだ。
今のガワは北公だ。あそこは連盟政府と戦争しているが前線の南下速度が目に見えて落ちている。
その状態で敵を作るのは悪手だ。例え相手が今や亡命している国家であり、力の無い帝政ルーアであったとしても。
「だとよ。クロエさんよ? どうするんだ、アンタは?」
クロエへ話を振り、彼女の方を見ると凄まじい顔をしていた。鼻筋に皺を寄せ顎を引き、食ってかからんばかりの嫌悪を浮かべている。
「何が目的ですか? スヴェルフめ、また私たちの邪魔をするのですか?」
ムーバリが笑顔になりクロエの問いかけに応えようとしたとき、銃撃が止んで静まりかえっていた先ほどいたカフェで爆発音がし、それに合わせて建物が揺れた。
手投げ弾か何かが放り込まれて炸裂したようだ。
度重なる銃撃と爆発により、建物は脆くなっているようだ。パラパラと小石や埃が降ってきた。爆発の強い振動以降、建物がミシミシと揺れている。
銃撃ではなく建物の倒壊に巻き込まれて足止めされてしまいそうだ。
「とにかく一度ここを離れましょう。あとは彼らが応戦してくれます」
銃声は聞こえているが、こちらに向かって撃ってきている様子は無かった。建物の外に何かがいてそれに向かって撃っている様だった。
「誰だ?」
「聞いてませんか? “不顕皇手”ですよ。肋骨服ではないメンバーですが」
「テロリストだろ? 皇帝が宣言をして何が悪いんだ?」
ムーバリは黙り込むと俺の目を無表情で見つめてきた。それに困惑していると、
「どうやら何も聞いていないようですね。彼らも皇帝は殺されて困る勢力です。とにかく彼らは私たちの味方です。ついてきてください。こちらなら比較的安全に芸術広場へと迎えます」
と何も答えずに走り出した。
皇帝が殺されて困る、というのを知っていると言うことは、そのレヴィアタンは皇帝が暗殺される様な事態がこれから起ころうとしているのを既に把握していると言うわけだ。
彼と彼らがどうしてそれを知っているのか尋ねている暇は無かった。
クロエは遅れることなく着いてきたが、その間終始何も言わず絶えずムーバリを警戒していた。




