マルタン芸術広場事件 第三話
市街地に入るや、左手で杖を持ち上げて天に掲げて無駄に大きな火花を何発もできるだけ高く打ち上げた。
打ち上げた後には杖をマイクのようにして「おらおらおらー! 俺サマのおなりだァァァー!」と大声をまき散らした。
横でクロエが目と口を見開いて間抜けた顔で俺を見ているのがちらりと視界に入ったが、とりあえず何も考えないことにした。目立てば何でも良いんだから!
「こっち見んな! 集中しろ! それよりおい、そろそろ仮面被れ。敵さんのお出ましだぞ」
クロエははっとして慌てだし準備しておいたペスト医師のような仮面を被った。同時に前方から群衆が走ってきた。
服装は統一されていないが武器を持っている様子で、どうやら亡命政府軍のようだ。
「クロエ、機関銃で地面とか建物の壁を撃ちまくれ! 人に当てても意味が無いからな!」
人を殺させない為に嘘を教え込んで機関銃を乱射させた。
先ほどの失敗で要領を得たのか、今度は反動に振り回されることなく乱射し始めた。
さすがに器用で弾帯の交換も素早くなっている。絶え間ない銃撃を繰り出すようになった。
途轍もない土埃が巻き上がると視界は塞がれた。前方の軍は左右に避けたので、加速してその真ん中を通り抜けた。
「囲まれますよ!」
「どうでもいいんだよ! 目立ちゃこっちのもんだ! 俺もお前も魔法にゃ自信があるだろ! 囲まれたくらい屁でも無い!」
だが、言い終わると同時に、バイクのタイヤカバーが甲高い音で鳴いた。そちらを見ると金属で出来たカバーが大きくへこんでいた。さらにもう一度、甲高い金属音がして火花が散った。
「銃撃だ! 掴まって伏せろ!」と言うと俺は蛇行するように運転を始めた。
「姿勢を低く保てば大体当たらない! 弾に気をつけてお前も乱射しろ!」
「狙った方が効果的ではないですか!?」
「狙うな! 人は撃つな! 民間人がいるかもしれない!」
「なるほど、分かりました! あなたの信念に従えって事ですね!」と言うと壁や地面に向かって乱射し始めた。
どうやら俺の嘘はバレていたようだ。だが、それでも人を撃たないようにしてくれているようだ。




