不協和音 第四話
「あー、シロークか?」
「リナか。どうしたんだい?」
「私さぁ自分の部屋に忘れ物してたんだわ。取ってきてくれないか? 私の部屋の奥の物置ンとこ」
しばらくキューディラが静かになった後に「私も忙しいのだが」と気まずそうな返事が聞こえた。
「嘘つけ。お前ンとこも今日臨時休みじゃねぇか。警戒態勢で軍部省以外急遽休みしたじゃねぇかよ」
「あ、いや、まぁ、そうだが、君の部屋は……。なんだ、こう、とても汚……整理整頓が行き届いていないじゃないか。自分で行った方が……」
「あ? うるせぇよ。今からそっちにポータル開くから探してきてくれ。で、移動魔法用のマジックアイテムをお前に渡しとくから、見つかったら軍部省のオフィスまで持ってきてくれ。今どこだ?」
「ダイニングだよ。コーヒー飲みながら新聞を読んでる。女中たちも出払って珍しく静かだよ。久しぶりに自分で淹れてみたら意外とうまく出来た」
「優雅だねぇ」と言いながら小さくポータルを開いた。ポータル越しにでっかくダルメシアンが描かれたクソほどダサい毛糸のセーターを着たシロークがこちらを見ている。
「飲むかい?」とカップを持ち上げて見せてきたが、「いらん。じゃよろしく」と言ってマジックアイテムを放り投げた。シロークは慌ててカップを置いてそれを受け取った。
所有者が変わった瞬間、ポータルは問答無用で閉じた。
さて、それが届くまで私は何も出来ない。
再び椅子を回してブラインドの方へ向き直り、窓枠に足を乗せた。隙間から外の様子を覗いながら足先を動かしていた。
しばらく片付ける音を聞いていると「ところで、奥方様」とフラメッシュ大尉が手を叩きながら呼びかけてきた。
私は外に目を細めながら「ここは軍部省だぞー。フラメッシュ大尉殿ー、お前もか」と振り向いた。部屋からはゴミはすっかり無くなっており、あらかたの大事な物は段ボールの中にしまってくれたようだ。その段ボールも部屋の隅にまとめられ、見えないようにブルーシートを被せてくれた。
「失礼しました。ュリナ・ギンスブルグ軍部省長官殿、私は先ほど申し上げたとおり、用事がありますので一度失礼させていただきます。後ほどお伺い致します」
オフィスはだいぶ片付いた。これなら大丈夫だろう。フラメッシュ大尉を連れてきて掃除させたのは正解だった。
フラメッシュ大尉におーうと右手を挙げて返事をすると、フラメッシュ大尉はドアへと向かっていった。
ドアの前で一度止まり背筋を伸ばして敬礼をして「失礼します」と言って出て行った。
私はのんびりと大尉の背中を見送った。
それから自分で片付けの続きを――するつもりもなかったので、ポケットいっぱいに入っていた五センチほどの金属の棒を取り出して机に並べて数えて過ごすことにした。
十分ほど数えていると眠気が襲ってきた。だがそれと同時に、今日が担当の伝令兵がオフィスにやってきた。




