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不協和音 第二話

「誰だ? 今日はアポなんか入れてねーぞ。今日は休みだ。追い返せ」


「それが、その……。御子息のマリーク様です」


 何してんだ、あの小僧は。顔を擦ってため息をした。

 スピーチの時間も近い。街中に放り出すのもよくない。仕方あるまい。

「通せ」と言うと「かしこまりました」と言う返事が聞こえた。


 受話器を放り投げて戻してから三分もするとドタドタと落ち着きの無い足音が聞こえてきた。そして、ノックもせずにドアが開かれた。


「ママ、どうして僕を外したんですか!?」


 マリークは全速力で走ってきたようだ。肩が荒い息と共に上下している。


「マリーク、命令はどうした? 家の自分の部屋から一歩も出るなと言ったはずだが? そして、今私はお前のカーチャンである前に軍部省の長官だぞ? カーチャンのこと好きなのは嬉しいが、ママンと呼ぶのは家でだけにしろ」


 そうなのだ。私はマリークの言うとおり、彼をマルタンに送る狙撃部隊から外したのだ。

 息子が大事であるか否か、ではない。それもゼロでは無いが、作戦の成否に影響するからだ。


「なぜオリヴェルも外さなかったんですか!? 彼は僕が推薦したんだ! こんな無責任なこと!」


 マリークは私の言葉にさらにヒートアップして声を荒げた。

 マリークの言うとおり、オリヴェルはマリークの推薦によって狙撃部隊に加わった。そう言う場合はだいたい一蓮托生にする。

 だが、今回はそうはせず、私の権限でマリークだけを外した。狙撃部隊には予めマリークは外すと伝えてある。

 彼女たちもマリークと被狙撃者であるアニエスとの関係を把握しているため外したのは真っ当であると理解している。逃げただの臆病者だのと言う者は一人もいない。


「オリヴェルはイズミとの繋がりがあるにせよ、そこまで緊密では無い。それに、お前と違ってアニエスにも会っていない。

 お前のことはよく分かってるつもりだ。優しすぎる。アニエスの性格をお前は知ってしまっているから、命令に従う前に善悪のせいで引き金が必要以上に重たくなる。

 もし万が一に、お前しか撃てなくなってしまったとき、そのときにお前はその鈍った引き金を握れるのか?」


 マリークは首を下げてぐっと喉を鳴らした。しかし、「で、でも」と食い下がった。


「出発は狙撃直前だからそれまでは家から一歩も出るななんて嘘をつく必要ないじゃないか!」


「で、お前は軍部省の直々の命令を破ってここに来た、と。そんなに前線に出たいのか?」


「最初はイズミ先生の役に立ちたいと思っていた。でも今は、オリヴェルは僕が着いていないとマズいんだ!」


「あいつをセンセェ呼ばわりか。カーチャン、お前の将来が心配だぜ。

 マリーク、よく聞け。お前はもうデカい。だから、もうガキ扱いしていない。もちろん、オリヴェルもだ。

 これは遠足じゃない。誰かを殺しに行く戦争なんだ。一人じゃ不安だなんて言ってたら飛び交う砲火と魔法の中で生き残れないぞ。お前の友達ならそれくらいは問題ないはずだ」


「違う! 違うんだって。そうじゃないんだ。オリヴェルの」


 とマリークは顔を下に向けて足先を見つめた。拳を強く握ると顔を勢いよく前に向けて「オリヴェルの様子がおかしかったんだ!」と不安な声を上げた。

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