銃を手に取る青年たちの目に映るもの 最終話
オリヴェルは目をつぶった。
風が吹くと夏の木陰は輝きに満ちた。青い空が逆光で白く飛ぶように見えた。
「なぁマリーク」と名前を呼んだ後、顔を上げてつぶっていた目を開き、空を見上げた。しばらくそうした後「君はそんな人は撃てるのかい?」と尋ねてきた。
「僕は先生が正しいと思う」
そう言ってはぐらかした。
僕自身に撃つ気はないし、誰にも撃たせるようなことはしない。
それをオリヴェルに言ってはいけない。
僕は当日行われるスピーチでされる狙撃を妨害するつもりだ。
仮にそれで共和国の軍隊に取り押さえられたとしてもだ。アニエスさんはイズミ先生が必ず助け出す。
オリヴェルは何も言わなくなった。
僕の当たり障りのない返事に何を思っていたのだろうか。それはわからない。
オリヴェルは選挙の最中に僕を置いて大人びていき、いじめっ子をしていた頃とは違う強さを手に入れていた。そして、父親の自殺以降は口数も減りすっかり大人になってしまった。
早く大人になれたのが羨ましいとは思いつつも、大人になった原因が僕には降りかからないで欲しいと願ってしまうこともあった。
オリヴェルは掌を見つめていた。その掌には汗が浮かび光り、小刻みにときどき大きく震えている。震えるのを誤魔化そうとしているのか、時折爪が食い込むほどに強く握っている。
何か途轍もない恐怖が覗えるのだ。父が残した銃を持ち、そして、それを使って人を撃つことへの恐怖以上の何かだ。
それにどこか様子が――。
「大丈夫か?」と尋ねると、顔をこちらに向けた。額には汗が浮かび、視線が定まらないほどに瞳孔は震えていた。
これは大丈夫ではない。しかし、この期に及んで部隊から外してくれてというのは不可能だ。
僕はオリヴェルの抱く恐怖の対象が理解出来ない。彼は幸せに育ってきた僕には理解が及ばないほどの恐怖をこれまで何度も味わってきている。それが悔しかった。
何に恐れ入るのか、それを聞いてもオリヴェルは答えてはくれない。
だから、何が何でも僕に出来ることは、妨害を成功させ誰一人殺させないと言うことだけだ。




