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銃を手に取る青年たちの目に映るもの 第二話

 僕が撃てば敵を殺せる。


 訓練場で一度試射をさせて貰った。昔ジューリアさんが使っていた古い建物だった。僕の放った氷雪系をベースにした氷塊弾は一番遠くの的に当たった。

 だが、的のどこに当たったのかは分からないほどに的は砕け散った。それどころか、建物の頑丈な壁さえ貫き、その後ろの木にひびの無い穴を開けて内部で止まっていたのだ。

 僕の銃は下手すれば魔力雷管式銃よりも威力が高いかもしれないと、そのときになって先生の意図が身に染みた。


 でも、銃による殺傷をしないと貫くことで先生との信頼は築かれる。


「君は魔法が使えるからいいな。杖としても使えるんだろう」


「そうだね。怪我したら治癒魔法で治してやるよ。この間教えて貰ったんだ。擦り傷くらいなら五秒だよ」


「君が羨ましいよ」とオリヴェルは薄い笑みを浮かべながら顔を下に背けた。


「ぼくにも魔法があればいいのにな」


「魔法がなくても戦える。君も銃はあるじゃないか」


「そうだな。でもぼくは銃ではないもので戦いたいんだ」


 オリヴェルは魔力射出式銃を持ち上げ、銃口を上に向けた。そして、バットの方から銃身の先までゆっくり見つめた。微笑んでいたが、どこか悲しそうな瞳をしていた。


「魔法さえあれば、こんな銃なんか持たなくてもよかったかもしれない」


 魔力射出式銃はカールニーク社の今は無き武器製造部門が作っていた銃だ。

 ガウティング・ゴフに生産部門が移った後に威力規制が撤廃され、雷管式銃との威力差は無くなった。

 魔法を使う者たちと対峙した際に火薬を用いずに物理的に攻撃できるので、戦闘では使い分けられるようになった。


 オリヴェルの持つ銃ももれなく魔力射出式銃だ。だが、それは規制解除前に作られたカールニーク社製のものだ。

 今回の作戦は長距離からの射撃。千ヤードは離れている。規制前のものでは威力が足りず、そこまで届くことはない。

 だから相当な改良が施されている。まだ試射はしていないので、真っ直ぐ飛ぶのかどうなのかすら怪しい。


 真っ直ぐなど飛ばなくてもいい。飛んでいく必要もない。それでいいのだ。

 僕は先生とした約束がある。アニエスさんを殺させないという絶対に破ってはいけないものだ。

 僕は狙撃のタイミングをずらすだけが役割だが、誰にも銃の引き金を握らせないつもりだ。


 しかし、オリヴェルは今回撃たせなければいいというわけではない。

 今後、彼は自分の父親の会社の銃をいつまでも使い続けなければいけない。それは会社の方針が変わろうと、武器製造部門が無くなろうと、それを背負って生きていかなければいけない。

 仮に銃を持たなかったとしても、オリヴェルはカールニークの社長だからだ。


 これから大人になり、やがて彼が本格的に会社を率いることになるだろう。そうなればなるほどに、その背中にあるものは重くなっていく。

 子どもには重たいたった一丁の銃ではなく、大人ですら必死になる目に見えない重圧を背負わなければいけないのだ。


 それを考えると、僕は何も言えなかった。

 魔法なんてあっても変わらない、とは言えない。確かにオリヴェルの言うとおり、魔法があれば自殺した父親を、冷たい鉄とニスの塗られた木材で出来たそれに触れる度に思い出さずに済んだかもしれない。

 君は引き金を握らなくて良い、とも言えない。作戦に参加するように誘ったのは僕自身だ。それを言ってしまえばオリヴェルはオマケや出しにして作戦に参加したようにしかならない。

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