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服従者の偽り 第三話

 権利を無視するような強権的な国家や組織であろうとも、戦いに勝利して政治を収めればそれは善となるのだ。

 どれほど民衆に寄り添った理想的な福祉国家だとしても戦いに負ければ悪以外の何者でも無くなる。


 戦いを始めるとき、相手は間違っているからそれを正そうとして、もしくは過ちを繰り返させない為に攻撃をする。

 しかし、戦いを始めたときに、皆が皆、正義になろうという思いを心の中に抱いて戦いを始めるわけではない。それは同一の組織内部でもそうだ。


 例えば、今まさにこの状況。

 これから帝政思想(ルアニサム)が起こそうとしていることは、それに加担する者全てが統一された思想である帝政思想(ルアニサム)に基づいている。

 しかし、そのうちに一体どれほどが皇帝を心から崇拝しているのかは怪しい。自らの利益や保身の為に近づいている者も少なくは無い。


 そして、もし仮に全員が統一して正義になろうと考えて戦いを起こしたとしても、自らの良心による正義に従うことが絶対の正義であるとは限らない。

 正義の価値観は立つ瀬によって変わる物であるからだ。


 帝政思想(ルアニサム)を掲げる者がしようと画策しているそれはこの隊長のように敬虔な皇帝崇拝による考えが根底にある。その取り巻きはどの程度だか。


 今、私の目の前で動こうとしている歴史は漏れなくまだどちらも善悪ではない。

 私が渡したこの情報だけで雌雄を決することはない。私が付いた側がほんの僅かに有利になるだけだ。

 自らの裏切りという行為へのエクスキューズではない。これは本当に些細なことでしかないのだ。


「君はさしずめ、裏切り者だ。そして、悪い仲間とは我々帝政思想(ルアニサム)だ。だが、それも今のうちだけだ。君は国の窮地を救い出した英雄になる」


 私のような裏切り者はどれほどいるのだろうか。その全てが英雄になることはない。

 些細なことを積み重ねれば確かに成功はするだろう。だが、その些細全てを英雄にすれば復活した帝政ルーアは英雄だけの国になる。

 そのようなことは有り得ないのだ。

 死神の馬車の御者に私はなるのか、それとも、私は死神その者なのだろうか。


「早くお戻りになった方がいいですよ? 市中警備隊の制服を着てこのような映画という娯楽を見に来て油を売っているのは職務怠慢だと思われますよ。

 あなたは今や隊長。オペラ座の時のようにはいきませんよ」

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