服従者の偽り 第二話
「あまりその名を口にするのはよくないですよ? 誰が聞いているか分かりませんから」
「今に我々帝政思想がこの国を取り戻す。その地獄耳に聞き納めにしてやれ。帝政思想は異端のように囁かれるときに使われる言葉では無く、国の根幹を成す言葉だ」
「頼もしいですね」
帝政思想を掲げる者が皆このように日和見や営利目的でなければ理想的なのだが。率いている者たちのどれほどが日和見や営利目的なのだろうか。
スクリーンでは、主人公の男が酒場で飲み仲間と楽しげに話をしているシーンが映し出されている。
だが、飲み仲間の一人が深刻な顔で話をし始めた。男の話ではその年の最後の日に死んだ者は死神の馬車の御者を一年やらなければいけないらしい。
「帝政奪還への協力者は君も含めもう充分にいるが、多くて困ることはない。誰か心当たりは無いかね?」
「生憎、白服機関は軍部省と法律省の両方の管轄です。入隊時に相当な身辺調査が行われます。私がそれを掲げながらかつて入れたのは奇跡にも等しいですからね」
「なるほど我々が政権を奪還した折には解散、所属する者は逮捕、となるのは必然か」
「彼らは優秀ですよ。私もギンスブルグ家に入り杖を置くまでは所属していた身。かつての仲間もまだ所属しています。どうぞお手柔らかに」
「それは彼ら次第だな。共和制を捨て、帝政に戻り皇帝に忠誠を誓い、手となり足となり、同胞を殺すことになっても構わないという覚悟を持つのであるならば、あるいは」
映画では、主人公の男が新年の前日に死亡し魂だけとなり、墓地で横たわる自らの姿を見下ろしている場面だ。
その男の傍へ死神の馬車がやってきた。しかし、男の傍まで馬車を引いてきた御者はなんと、去年無くなった男の親友だったのだ。
彼はこれからその親友の代わりに死神の馬車の御者となり、死者の霊魂を集めて、自らの行いを省みる旅に出なければいけない。
「素晴らしい作品だな」
「死んだ男は家族思いです。悪い仲間と付き合い始めてから家族や助けてくれる人々に酷い仕打ちをしたとか」
「悪い仲間、か」
悪い仲間とはどちらのことを言うのだろうか。
この映画の悪い仲間とは、明確に悪事を働く者たちだ。創作の中に善と悪は存在する。
だが、歴史はそうではない。陳腐な言葉だが、善悪は勝者のさじ加減だ。




