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叛国の徒、突入に至るまで 第二話

 少々やりすぎたとは自分でも思う。だが、冷静になることは出来た。

 水浸しになった部屋を魔法で片付け、血塗れの制服を乱暴に洗濯して梁伝いにロープを張り、そこに干していた。

 雑巾でも絞るように思い切り絞ったので水滴が滴ることはない。あと一時間もすれば乾くだろう。


 薪を必要以上に入れて轟々と音を立てて燃えている薪ストーブの前に全裸であぐらをかき、どうしたものかと考え込み始めた。


 俺はちらりと梁からぶら下がる市中警備隊の制服を見た。半ば殴るように、水に溺れさせるように洗濯した制服は所々に着て出来るものではない皺が寄っている。


 これでマルタンに向かう。


 多少血のシミが付いてはいるし、乱暴に扱ったので生地が弱っているが、見た目など自分が市中警備隊であることさえ分かればいいので、多少みすぼらしくても構わない。

 それどころか、乱暴に扱ったせいで以前よりも柔らかくなり着やすくなっているだろう。


 マルタンの市街地は小さくはない。そこには亡命政府の軍隊がひしめいている。

 寄せ集めの軍隊であることに変わりは無いが、数が多ければその中にも戦える者が出てくる。母数がさらに大きくなれば、その数も増えてくる。


 俺は相手を殺す気はないが、相手は俺を殺す気でいる。本気でやらなければ殺されてしまう。相手の殺意を上回る不殺で行かなければいけない。

 手加減ばかりしてきたので、どの程度で死んでしまうかは分からない。だが、あの名前のないあの魔法がある。

 あれを使えば強烈な音と光で相手を大体怯ませることが出来る。来ると分かっていれば対策を取られるが、使い慣れてきたので詠唱時間も短くなった。

 突進しながら唱えれば相手は目や耳を塞ぐタイミングを与えられずに済む。

 雑魚は大体それで散らせるだろう。


 しかし、小さな俺には広いマルタン。どうやってアニエスを探し出せば良いのだろうか。

 マルタンには一度行ったことはあるが、観光まではしなかった。市庁舎がどこにあるかはわからない。仮に市庁舎に入ったとしても建物の構造は分からない。


 狙撃直前までに少なくともアニエスと同一平面の半径五メートル内には入っていたいのだ。


 どうしたものか、腕を組みあぐらをかいていた膝の上に肘を突いた。


 そのときだ。寝室の方から何か硬い金属が落ちるような音が聞こえたのだ。


 何だと思い、寝室の方へ向かうと棚の上に置いてあったセシリアのコートがだらしなく広がり、裾を地面に落として揺れていた。

 元の位置に戻そうとコートを持ち上げようとしたが、何かが引っかかって上がらなかった。


 地面に落ちてコートに引っかかっている何かを取り上げると、それは鞘に入った短剣だった。

 見覚えのある柄を掴み鞘から少しだけ抜いてみると、玉虫色の刃が炎の色を返してオレンジから緑にじわりと光った。


 これはセシリア、というよりもククーシュカが愛用していた短剣のサモセクだ。

 一体どうして出てきたのか、しかし、四次元コートの中に戻そうにも方法が分からない。

 参ったなと思いながら鞘にしまおうとしたとき、俺の腕は止まった。


 もしかすると、これは使えるのではないだろうか。


 サモセクは必中の短剣。投げれば魔法か何かで血を覚えた者に向かって飛んでいく。

 確かだが、ククーシュカはサモセクをアニエスにしか使っていなかった。

 つまり、まだアニエスの血を覚えているのではないだろうか。

 そう思い、試しに正面に向かって不器用に投げてみた。下手くそに投げたので回転しながら放物線を描いて、なんと俺の方へと向かってきたのだ。

 寸でかわすとその後俺の後方一メートルほどで刃を地面に突き立てた。

 刃は俺ではないどこかの方角に向かっている。俺はその方角を確かめると見事にマルタンのある南西方向に向かっていたのだ。


 これは使える。俺はサモセクを持っていくことにした。


 次は仲間を探すことにした。否、無理矢理手伝わせることにした。

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