迷える羊飼いとギンセンカの乙女たち 第三十二話
「移動魔法の戦略的使用は商会が自ら禁止しています。
シグルズ指令があったおかげで移動魔法のマジックアイテムは全て商会が管理しています。
そして、未登録のものが使用が確認された場合は直ちに商会の商人が回収します。
誰しも便利な移動魔法のマジックアイテムを回収されたくはありません。
現地で商会の目の前で未登録のものが突然使われることはないでしょう」
「相手が使わないとなるとこちらも使うわけにはいかないな。
マルタンはユニオン領であり商会のテリトリー外だという屁理屈を付けてこちらが使えば、相手は箍が外れたように使いまくるだろうな。
それも商会が持っている数がどれほどなのか分からない」
「こちらも輸送以外での使用は控えましょう。
ですが相手は連盟政府。追い詰められた時に何をするかわかりません。
商会は阿漕なよう自ら設定したルールには従います。問題は商会ではなく連盟政府の方です。
これまでの経緯を考慮すると、連盟政府は商会にマジックアイテムを差し出すように命令するでしょう。それにも商会は反対します。
最終的に連盟政府の人間が商会の商人を襲い、マジックアイテムを奪いルールを無視して使うかもしれません。
ですが、仮に使われたとしても、対応策はあります。
近距離で別々のポータルが開かれると混線して予定していた地点に開くことは出来ないという欠点があります。
商人たちはそれを承知ですが、普段あまり使わない者たちは移動魔法を便利で万能だと思い込んでいるのでそれを知りません。いざとなればそれを利用しましょう」
「具体的には?」
「こちら側での出口は一つにしましょう。それこそ一網打尽に出来るところに絶えず開いておけばいいのです。
混線が起きた場合、敵側はポータルの先が現地に戻るか、こちらが意図的に開いた場所につながるだけで済みます。
つまり、戻るか一網打尽にされるかだけとなります」
「随分都合が良いな。むしろ使ってくれ方が事態を素早く収拾させられそうだな」
ルカス大統領は小さく笑った。何やら余裕を取り戻しているようだ。
「それもそうですが、今後の戦いを考えるとこちらから打って出るのは控えましょう。収束後にどっちが先に使ったかで揉める原因にもなります。
何れにせよ使われれば収束後に、ユニオンが勝利を収めたのは戦時ルールを無視したからだと連盟政府は末代まで言い続けるでしょうね」
「なら、当代を末代にしてしまえばいいと思わんかね?」




