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迷える羊飼いとギンセンカの乙女たち 第三十一話

 私はそこで言わないことが一つあった。

 レアはゆくゆくは協会が覇権を取ろうとしていることを把握しているのは間違いない。

 しかし、幸いにもそれについては一言も言わなかった。さすがにユニオンでは言えないのだろう。

 私も言われてしまえばユニオンでの立ち位置が危うくなる。彼女が言わなかったのは、しばらく、およそ覇権を獲得することが既定路線となるまでは、おそらく私にユニオンと緊密な状態を維持していて貰いたいという目的があるのだろう。

 それを加えて考慮すればレアが嘘をつく可能性は限りなくゼロであることは確かである。


「なるほど」とルカス大統領は私を見て頷いた。ティルナの方を見て「ティルナはどうかね?」と尋ねた。


「私は完全に賛同ではありません。

 カミュの判断に情が一切無いかと言えば、そうではないと思います。

 ですが、そのグルヴェイグ指令について、レアさんがもし商会側の人間としてここに話を持ち込んだとすれば、それはリスクが大きすぎます。

 このままどこかの犯罪組織の仕業にして済ませてしまったほうが今後の商会に向けられる世間からの視線を悪化させずに維持できるとも考えられます」


「確かにそうだな。おおよそ賛同、ということでいいか。

 私としては新通貨発行を急がせる理由になるので、信じたいとも思う。

 新通貨発行は過剰に急かせば混乱が必至だが、グルヴェイグ指令による混乱に比べればマシだとも思う」


 ルカス大統領は同意を求めるようにティルナと私の顔を交互に見てきた。求めると言うよりも、そうであると結論づけたようだ。ティルナと私が頷くと、ルカス大統領も頷いた。


「ところで、今後の扱いはどうするかね?」


「彼女の言い分では、ユニオンは今後も存在していなければいけないというものです。

 ご存じの通り、協会のシンクタンクによれば戦争は二ヶ月もなくケリが付きます。それも、失礼ですが、ユニオンの大敗という形で。

 それは避けなければいけないので、グルヴェイグ指令を始めとした事柄の情報提供ならびに、山岳で計画されている連盟政府・商会聯合軍への迎撃作戦への参加を希望しています」


「最前線に加えろと言うのか。それは認められんな」


 ルカス大統領は前屈みだった上半身を驚いたように起こすと、椅子の背もたれに寄りかかった。


「そうでしょうね。私もそう思います。ですが、ユニオン軍の兵士の精鋭部隊は本命のマルタン市街地に送られていて、山岳部隊は新兵が目立ちます」


「それは私のミスだな。山岳地帯での問題はユニオンだけの出来事で共和国軍の支援を積極的に申し入れなかったのだ」


「仕方がありません。他国の介入を積極的に行わないのは間違いではありません。その後にそれを足がかりにされる可能性はゼロではないですから。

 そのために私たち元101部門が呼ばれたのではないのですか?」


「そうなのだ。だが、先ほどの報告では連盟政府・商会聯合軍は数がやたらと多いではないか。いくら101部門の中で、ことさら武闘派であったとしても、その数では相手には出来まい」


「差し出がましいですが、やはりレアともう一人を前線に出してみては如何でしょうか?」


「仮に私がそれを了承したとしよう。しかし、二人増えたところでどうなる?」


「レアはご存じの通り隔世フェリタロッサ系統血、ルーアバリアントであり、移動魔法が使えます。移動魔法が使える人間がこちらには二人となります」


「素晴らしいとは思う。だが、相手にもそれはいるのだろう? むしろ相手の方が多いと思うのだが」

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