迷える羊飼いとギンセンカの乙女たち 第三十話
「と、言ってますが、彼女もイズミには甘いのです。
空の時代が始まった今でこそ価値は低いですがフリッドスキャルフを簡単に上げたり、リスク覚悟でシグルズ指令から彼とアニエスさんを庇ったりしていますからね。
確かに、イズミは移動魔法などの血統系のはずの特殊能力を持っているうえに、性格的に単純で扱いやすいのです。
それは大統領もご存じのはずです。それだけではなく、仲間として共に行動していた時間も短くは無いので、情もあるのでしょう」
「なるほどなぁ。わからんでもない。
イズミ君は、あぁ、今は、まぁ、ちょっと色々とアレだが、これまで色々とこき使ってきた。用済みだからと言って捨ててしまうのはどうも私の心情的に気に食わない。
彼は現在任せている任務でしっかりやってくれるなら問題は無いのだが、万が一にでも放棄してしまうかもしれない。
そうなったとき、おそらく共和国が法的に裁きを与えるというかもしれないが、ユニオンで裁かなければいけない。マルタンのことについてはユニオンが主体となっているのだから。
共和国は帝政を潰すという目的を掲げているが、現場はあくまでマルタン、ユニオン内部の話だ」
ルカス大統領はイスペイネ人改めユニオン人だ。家族を大事にするというのがユニオン人の国民性だ。身内に甘いというスヴェンニーとはタイプの違う思いやりだ。
大統領は移動魔法の血筋を得る為に、イズミに自らの娘を宛がおうとしていた。それ故に家族も同然なのだろう。
「イズミ君の話はこれで終わりだ」とルカスは話をパタリと終わらせた。あまり処罰云々という話を続けたくもないのだろう。
「さて、本題なのだが、レアという商人の話を信じるかね?」
「私はレアの話を信じます。
情ではなくこれまでの経験で言えば嘘ではありません。
もう少し具体的に、彼女が嘘を信じ込まされている可能性についてですが、彼女自身は商会創業者一族のベッテルハイム直系の血筋であり、商会の中枢や機密に触れる機会は多いです。
その彼女に嘘を信じ込ませるにはかなりの労力と時間がかかります。
面々と受け継がれる強固な一族経営で、時空系魔法発現者、隔世フェリタロッサ系統血、あるいはルーアバリアントにそれをするのは些かリスクが高すぎます。
目的を果たした際に得られる利益に釣り合わないと考えます」




