迷える羊飼いとギンセンカの乙女たち 第二十七話
私たちは交代要員と入れ替わり、レアとポルッカを連れてラド・デル・マルへと戻ることになった。
二人を同じ場所には拘束せず、別々の場所に拘束した。
ポルッカはまだ気を失っているので、先にレアの聴取が始まった。
しかし、彼女は頑なに何も言おうとしなかったのだ。聴取に応じるにはカミーユ・ヴィトー自身が中心になって貰わなければ何も言わないと黙秘を続けているのだ。
私は両拘束者の友人かつ顔見知りであり、拘束時以降は顔を合わせることを許されなかった。それどころか今後私にまで聴取が行われることになったのだ。
私の聴取はレアの聴取の後と言うことになっていた。
しかし、レアは商会諜報部という立場もありなかなか態度を軟化させる気配がなく、長時間にわたる可能性が出てきたので、私が聴取して、その場で第三者によって私もされることにもなった。
拘束室の隣にあるマジックミラーで隔てられた監視室に入ると、そこで監視をしていたユニオン兵が立ち上がり敬礼をしてきた。
「お疲れ様です。彼女にここの居場所は伝えてありますか?」
「ええ、分かるように施設名の書いてある物をあえて部屋に残してあります。それに気づかないほど素人ではないと思いますので。
拘束の際も徒歩でここまで案内しました。また事前の情報で、数年前にレア氏はカルデロンとの協議を行う為にラド・デル・マルに自身の足で入ってきていたことも確認済みです。
わざと移動魔法を使える状況にして逃がし、ポータルを開いた瞬間に見えた先を調べようかと思ったのですが、使う様子が全く見受けられません」
マジックミラー越しに拘束室の中を見ると、尋問机に両手を置き、天井からの青白い光りを受けて瞑想でもしているかのように深く目をつぶっているレアの姿が見える。
彼女の杖であるケーリュケイオン、ペンの形をしたそれは机の端とぴったり並行に置かれ、手に取るには少し遠いほどの距離に静かに置かれている。
コンクリート打ちっぱなしに魔力照明の青白い光が彼女の落ち着いた表情を浮かべているが、それには神秘性まで感じた。何らかの強く硬い決意を言葉にせず、態度で意思表示をしているようにも見える。
その何らかの決意は、他の者たちにも伝わっている。だが、私でなければ聞き出すことは出来ないだろう。だからこそ、ここに呼ばれたのだ。
「呼び出されたのはいいのですが、一対一で話すというのは無理ですね」
「そうですね」と兵士は顔をしかめた。
「こちら側から呼びかけられますか?」
兵士は可能ですよ、と言うとマイクを渡してきた。そして、頷くと操作盤のスイッチを押した。




