迷える羊飼いとギンセンカの乙女たち 第二十六話
「ポルッカ、抑えなさい! 私たちの置かれている状況を理解しているのですか!?」
レアはしきりに、そして言葉を重ねるごとに語気を強めてポルッカを諫め続けた。
「私の一族は信念に基づいて行動している。利益追求だけで正義のないの血混じりアホウドリは黙っていろ」
「そう」とティルナは落ち着いた。
「ラーヌヤルヴィ家の人って一族を馬鹿にされるのを極端に嫌がるらしいわね」
「我が一族を馬鹿にするだと? 笑わせるな。司法神ヴァーリの神孫たる我が一族に、一切の落ち度など無いわッ!」
黄金捜索時にはあまり接点はなかったが、確かに馬鹿にされると怒り出すとは聞いていたし、話合いの最中に何度も怒鳴っていた。
ポルッカはティルナが何も言っていないのに怒りだした。
「じゃあ、尋ねるわ。その髪。その前髪の綺麗なシルバー」
ティルナはとどまることなく、既に怒れるポルッカにさらに追い打ちをかけたのだ。
「それはいったい何の血が混じっているのかしら?
それ、後天的なものじゃなくて遺伝らしいじゃない。そんなに強く残るのは初代の血がよっぽど濃いのね。さすが、ブランバット、ブランバットって言えるだけあるわ。
そういえば、私たちユニオン人のシルバーによく似ていて、とってもステキね。でも、何故かしらね?」
そう言いながら挑発的に笑い、そして自らのシルバーの髪を人差し指に巻き付け、一度匂いを嗅ぐとするりと離した。
髪の毛は揺れると陽光にキラリと銀色の粒子を残した。
ティルナの言葉にポルッカはさらに怒り、全身が膨らみ始めた。肩は上がり、毛は逆立ち、顔は赤くなって行く。
怒りが頂点に達してしまったのか、ポルッカはついに左腕をまくってしまった。
金属に追われた左腕が露わになるとリベットが木漏れ日の間を縫って差し込んでいる太陽の光を反射した。ポルッカは左腕を真っ直ぐに伸ばし天に掲げた。
隊員たちが一斉に武器を構え、迎撃態勢に入ったそのときだ。
レアが両手を挙げたまま飛び上がり、空中で身体を大きく捻ると足首を回転させ、ポルッカの首筋めがけて踵を振り下ろしたのだ。
細い枝が空を切るような音をあげたあと、低く鈍い音がした。ポルッカは目を見開き、口から唾を吐き出しながら前のめりに倒れていった。
レアは器用に着地すると、
「ごめんなさい。勝手な行動をとったこと、それからポルッカの度重なる失言を謝罪します。私たちをあなた達の手順通りに拘束してください。その代わり、話だけは聞いてください」
と跪いた。




