迷える羊飼いとギンセンカの乙女たち 第二十四話
木々の枝を伝い、二人の後方二十フィートほどの距離を取り尾行し続けた。
一人は小さく、もう一人は普通の大人ほどの大きさだ。親子にも見えないこともないが、先導している方が小さいのだ。
服装は二人とも濃い緑色のフードを被っている。山の緑の色に擬態していて、目を離せば見失ってしまいそうだ。
どこの手勢であろうとも、目立ちたくないというのはそこから判断できる。
野山は人混みよりも目立つ。山間部を抜けて市街地に早く辿り着きたいはずだ。その割には移動速度は速くはない。急いではいないのだろうか。
では、どのような目的があるのだろうか。
疑問に思いつつも尾行を続けていた。
しかし、太めの枝にティルナが乗り移ったときだ。運が悪くその枝は腐っていたようで、枝が思い切り折れてしまったのだ
重さのある大剣さえなければ折れなかったかもしれない。しかし、今さらだ。
自然界にはないような不自然に枝の折れる音を立ててしまったのだ。
その瞬間、先導していた小さい方が腰を落として立ち止まった。そして、フードの暗がりで顔は見えず視線こそ合わなかったが、私たちの方をハッキリと見ていた。
後ろの一人がこちらに振り向き、仁王立ちになると左腕をまくろうとした。攻撃に転じるつもりのようだ。
私たちはここでこれ以上目立つわけにはいかない。折れた枝はティルナがつかみ取り、地面に落ちて大きな音と立ててしまうことはなかった。
仁王立ちになった方がどのような攻撃に出るか、それ次第では腹をくくらなければいけない。
魔法を使われて木そのものが倒れようものなら、連盟政府にも亡命政府にも勘づかれてしまう。
そうなれば戦闘開始だ。唾を飲み込みそれを覚悟した。
しかし、先導していた小さい方がそのまくろうとした腕を掴み、首を左右に振りそれを制止したのだ。
大きい方がそれに首を左右に振ったことで二人組に隙が出来た。
「尾行ではなく拘束する!」
同時に木々の枝を飛び回るのを止め、地上に降りて二人を追いかけ始めた。
二人も追いかけられ始めたことに気がつき、木の根を掻い潜るように素早く走り始めたのだ。
ここは現マルタン市旧マルタン領であり、亡命政府軍の兵士が近くにいる。山の反対側には連盟政府軍も陣を築き上げている。
万が一、どちらかであればすぐにでも大規模な攻撃に出るか、信号弾を撃つなど目立つような行動に出ようとするはずだ。
逃げ出したことから、この二人組はどちらでもないことが確定したのだ。
「ティルナ、この先に別の二人組がいたはず! シグナルを送って!」
そういうとティルナはペン状のマジックアイテムを取り出し、“不審人物と遭遇。現在追跡中。挟み撃ちにする。支援求む”と何度か親指で先端を押した。するとすぐさま“了解”というシグナルが短く返ってきた。
私たちはフードの二人組を追いかける速度を上げた。
しばらく木の根と茂みの間を追いかけ続けていると先ほどポータルを開いたダム裏の原っぱが見えてきた。そこで挟み撃ちにすることになった。
二人が勢いよく広場に出ると同時に左右を振り返り、立ち止まったのだ。
私たちも遅れまいと原っぱの明かりの中へと飛び込むと、一瞬白んだ光の後に他の隊員たちに武器を突きつけられて止まっている二人組の姿が見えた。
「そこの二人、止まりなさい! 両手を挙げて動くな! フードはこちらが取る! 両手を挙げる以外の動きをするな!」
二人組の小さい方が私たちの方へ振り返ると、肩を浮かせた。そして、すぐさまフードを取り両手を挙げたのだ。
予想外で素早い行動に警戒したが、フードから現れた顔を見て私は驚いた。
「あなた、ここで何をしているんですか?」
「私を見つけたのがあなたで良かった! お話があります! カミュ! カミーユ・ヴィトー!」




