迷える羊飼いとギンセンカの乙女たち 第二十二話
ダム裏の広場からはダムが一望できた。その場所から堤体までどれほどあるのだろうか。
管理棟は、窓の大きさから言えば二階建ての一軒家ほどの大きさがあるが、それさえも小さく見える。
ダムを挟む渓谷は壁のように急峻だが、ダムの幅は広い。どれほど巨大なダムを作り上げたのだろうか。
「カミュ、驚いている暇はないわよ。観光しに来たわけじゃないんだから」
息をのむような巨大な建造物を首を回して見ているとティルナが声を掛けてきた。
「そうですね。これほど大きなものは見たことがないので」
「前はここまで大きくなかったわよ。でも、共和国との関係性が進んで進歩した科学技術がもたらされたおかげでさらに大きくしたの。
これのおかげでユニオンから干ばつと言う言葉は消えたわ。これから人口は増えることが予想されてるわ。それに対応する為にここまで過剰に大きくしたのよ。
でも、連盟政府はダムが気に入らないみたい。話題にもならなかったけど、独立後に連盟政府が一度東側で強制的な雨乞いをして西側の雨量を減らして干ばつに陥れようとしたけど結局失敗したなんてことがあったわ。
山岳部の分水嶺から東側の斜面だけに器用に雨を降らせるなんて、人間には不可能だったのよ」
「時代は進んでいるのですね。もう魔法も時代遅れということになったのですね」
「そうかもしれないわね。でも、このダムを破壊できるのは魔法くらいじゃないかしら。爆薬とか、科学的なものでは破壊できないように作っているから魔法にはそこまで強くないみたいよ」
「それ大丈夫なのですか? 連盟政府が相手だとマズいような気がしますが」
「そのために私たちがいるんでしょ。行きましょう」
ポータルを閉じると森の中へと入っていった。




