迷える羊飼いとギンセンカの乙女たち 第十八話
「連盟政府および商会が妙な集団を送り込んでいると言う情報が入り、上空から確認をした」
ファイルを開けると一枚の写真を取り出した。それを机の上に載せると、滑らせるようにこちらへ近づけてきた。
私は失礼と言って近づき、写真を持ち上げてそこに写っている物を見た。
分水嶺の東側の山肌が大きくはげているところがある。それが例の魔術関連廃棄物の処分場予定地のようだ。
だが、写っていたのはそれだけではなかった。ゴミのようなものと共に、何やら人集りや小屋が整然と並んでいるところが写っているのだ。処理施設としては小さすぎる。
「これはどういうことですか?」と写真とルカス大統領の顔を交互見つめた。
「君は近々マルタンで何が行われるか知っているか?」
「いえ、具体的には。最近はテロリストが暴れているというのは噂で聞いていますが、それはマルタン市街地の話だと伺っております。山岳部と関係があるのですか?」
「市街地に混乱が起きると我々ユニオンはどうしなければいけない?」
「市街地への警戒を強める必要性が出てきます。住民に害が及んだ場合、亡命政府がどれほど領有権を主張していたとしても、ユニオンが軍を動かすことになると思います」
「つまり、山岳地帯は手薄になる。それがどういうことか」
警備が薄い山岳地帯はさらに警戒の目から外れる。そこは防御の穴となり得る。
山岳地帯は戦闘には困難を要するが、攻め込むことが不可能というわけではない。周到な準備を行えば、警備が薄い分他よりも入り込みやすいかもしれない。
「しかし、市街地の混乱はテロによる慢性的なもので、軍が一斉に動くほどの混乱が起こることはあまり考えられないのですが」
「起こるのだよ。軍が一斉に動くほどの混乱がな」
ルカスは思わせぶりのように黙った。再びファイルを持ち上げると、今度は共和国から来た書類を見せてきた。
書類束の一部のようだが、羅列されている文章の途中に赤い線が引かれている。そこには“帝政ルーア亡命政府による、ルーアの正統な血を引く者が皇帝として宣言を行う”と書かれていたのだ。
「亡命政府は皇帝を擁立する事を正式に決定した。そして、その皇帝が宣言を行うのだ」
確かに一大事ではある。だが、疑問はあるのだ。
「なるほど、確かに大きな出来事ですね。ですが、皇帝が宣言するならばむしろエルフによるテロ行為は起こらないと思います」
「テロではなく、戦闘行為と考えたまえ。それを誰が起こすと思っているのかね? 現在の共和国にとって皇帝はどのような存在だ?」
「テロリストの構成員はマルタンの難民エルフ。そして、皇帝は唯一絶対のエルフの頂点。そして、排除すべき過去の……」
それ以上は口をつぐんだ。ルカスも顎を引き、視線をより鋭いものにした。
難民エルフは共和国を知らない。連盟政府の中で虐げられてきた。そこへ皇帝が現れるとなれば大いに期待する。難民エルフは私の言ったとおり動かない可能性は高い。
しかし、共和国にとって皇帝は排除すべき過去の亡霊である。




