迷える羊飼いとギンセンカの乙女たち 第十六話
私自身は父上から本部機能移転については聞いていない。だが、これから私たち協会がしようとしていることを考えれば、その可能性は大いにありうる。
さしあたり、まずはラド・デル・マルに機能を徐々に移すだろう。しかし、それも一時的。
巨大な資本を動かす上で中心的になるのはおそらくグラントルア。いきなりそちらに移転などすれば、協会の目論見がユニオンに露見してしまい、あまりいい顔はされないはずだ。
覇権獲得は極めて静かに、そしてさりげなくでなければいけないのだ。
ルカスは私をじっと見つめている。まるで見定めているかのようだ。
「君はやはりヴィトー家の娘だ。その物怖じしない態度は話していると父上を思い出す。
ここはユニオン、ラド・デル・マル。もう連盟政府ではない。あちらの秘密警察も聖なる虹の橋もここには来ていない。
大統領府にまで入り込まれるようでは国家の威信に関わる。左遷で新通貨発行のお手伝い、それだけではないだろう?
父上から何を聞かされたか、言ってももう何の問題もないぞ」
「そうですか。ではその実、左遷というのも形だけです。
101部門からユニオン支部へと左遷となったのは、仰ったとおりに連盟政府の顔色を窺ったことで間違いないでしょう。
ですが、そのような状況でユニオン入りした行員たちは私だけではないはずです」
「金融協会は立場が危うくなったので事業再編を行う必要性が出てきた。その過程でリストラや早期退職募集などをして人員削減をしようとしているらしいな。左遷はまだいい方ではないか?」
「そうなのですか。ですが、対象者はみな101部門の者ばかりのはずですよ。それも戦いに向いている者ばかり」
「その武闘派がユニオンにドヤドヤ押しかけているらしいな」
ルカスは執務机に肘を置き、前のめりになりがなら「何だね? 最近流行の国盗り合戦でもする気かね?」とにやりと笑った。
「ご冗談を。呼び寄せたのはあなたではないのですか、国盗り大将殿?」と小首をかしげて尋ね返した。
すると、ルカスはにやりとした不敵な笑みではなくなり、口角をさらに上げていった。やがては口は大きく開かれ、大きな笑い声になった。それに合わせるように身体も起き上がっていった。
「そうだな。今さらだが、ユニオンへよく来た。我々は歓迎する。君たち金融協会101部門武闘派の諸君」
「こちらこそ、お招きいただき、ありがとうございます。
さて、今回は資源戦争と伺っております。ですが、どこで何をすればいいのか、具体的指示までは伺っておりません。現地であおげとのことですが?」
ルカスはうむと大きく頷いた。




