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迷える羊飼いとギンセンカの乙女たち 第十四話

 ルカス大統領と顔を合わせるのはおそらく初めてでは無い。

 ティルナと知り合った頃、それも私が物心つくか付かないかの頃に、ユニオン、当時はイスペイネ領に来たことはある。

 信天翁(アルバトロス)五大(ファミーレ・)家族(デ・シンコ)の頭目たちとの顔合わせで父に連れられて来た。

 そのときに大統領になる前、頭目序列同列第三位のときのルカス・ブエナフエンテには会っているはずだ。


 しかし、それ自体はぼんやりとした記憶でしかない。記憶の中で唯一私がはっきりと覚えているのは、ティルナとの初対面の瞬間だ。


 あのときもここ、カルデロン本宅のこの部屋だった。

 ドアが開けられると当時の大頭目とカルデロン・デ・コメルティオの会長であるエスパシオの先代ネブロサが入って正面の大きな執務机に座っていた。

 その机の脇に、机よりも遙かに小さなティルナがちょこんと立っていた。

 窓から差し込んだ光でぼやけるほどに輝いていた銀色の長髪、回り込んだ光は青に近い紫の瞳に反射し、垂れた目尻には優しさを湛えていて、来ている服も上品で、まるで人形が動き出したのではないだろうかと思ったほどだった。


 彼女は不幸にも兄を亡くし、商会長の後を継いだ。ネブロサが座っていたあの大きな椅子に座る権利が彼女にはある。ドアが開かれれば正面のその大きな椅子に座って私を見下ろしてくるかもしれない。

 数ヶ月ぶりの再会だ。喜んでくれると私は嬉しい。しかし、どれほど喜んだ顔を見せてくれたとしても、その椅子に座れば私は萎縮してしまうだろう。

 彼女も随分遠くへ行ってしまったものだ。それには少しばかり寂しさを覚えた。


 しかし、ここは大統領府だ。もしかしたら座っているのはルカスかもしれない。そうであれば少しばかり気も楽だ。

 そのような幼なじみとのにこやかな再会をにわかに期待をしていた。


 ごてごてとしたドアの装飾は、時間経過のくすみ以外はあのときとは何一つ変わっていない。


 ヤシマがノックをした後、「失礼します」とドアを開けると「入りなさい」とティルナの声がした。

 ドアが開かれると、椅子に座っていたのは白いスーツにユニオン国旗柄のネクタイをした男、ルカス大統領だった。そして、ティルナは昔と全く同じ場所で佇んでいたのだ。


 懐かしさに胸が思わず躍ってしまった。しかし、ティルナの顔は険しく、昔の様に人形のような穏やかな雰囲気では無かった。

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