迷える羊飼いとギンセンカの乙女たち 第二話
――サント・プラントンでこんな噂を聞いたことがある。
ズートゥウェフト街道に出来た国境検問所の脇の森からユニオン兵士が出てきたことを見たヤツがいる。
そいつらは壁向こうでボールを蹴り合っていたが、一人が強く蹴りすぎて壁を越えてしまった。それを取りに来たんだ。
でもどうやって壁を越えたんだろうか。気になったヤツが森の中へ入ったっきり戻ってこなかったんだ。
しばらくして聞いたらソイツはユニオンで金持ちになってやがったんだと。
あの森の中にはユニオンへの秘密の通路があるに違いない。
誰がボールを蹴った兵士を見たのか。ソイツは何者だ。と根も葉もないただの噂だが、火のない所に煙は立たない。森の中には何かが必ずある。
何も無ければ、――少々目立つが、木を伝い壁を飛び越えていけばいい。
下はぬかるみ、むき出しの根に足を取られそうになる。濡れた枝は掴んでも滑り支えにはならない。森を駆ける鹿たちに紛れて、葉先の滴を弾きながら雨上がりの朝の森を進んだ。
葉の合間から白い壁が見えてくると、前方に開けたところが見えた。だが、見えたのはそれだけではなかった。何人か、少なくとも十人ほどの人集りが出来ていたのだ。
服装は皆一様にみすぼらしい。小さな子ども、それもまだ一人では歩けず母親に抱きかかえられているほど幼い子どもも交じっている。
彼らは豊かさを求めてユニオンへ逃亡しようとしているのだろう。
人集りが僅かに切れると壁が見えた。そこには何と大人一人が通れるほどの亀裂があったのだ。
だが、何度も直されては壊されてを繰り返しているのか、白いペンキの上にさらに白を塗り、さらにその上にも違う白い色が折り重なり、亀裂の周りと壁の色が異なっている。
ここは密入国スポットなのだろう。
だが、何はともあれ私はその集団に混じりユニオンに密入国することにした。
幸い私は二日間野山を駆けまわった末にここまでたどり着いたので服は泥や木の葉で汚れており、さらに雨を避ける為に道中で拾ったボロ布を被っていたおかげで、密入国者の集団に違和感なく混じることは造作も無かった。
皆我先に、それでいて皆静かにその隙間を抜けていった。そしていよいよ私の順番が回ってきたので通り抜けた。
穴を抜けると同時に、ユニオンの兵士と思い切り目が合った。
「密入国者ども! 止まれ! 一歩でも動けば警告無しに発砲する!」




