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仮初めの宮中にて 第六十七話

「あら」と驚いたような声を上げると、ルクヴルール軍事顧問の方へ視線をちらりと動かした。二人の声色が気づくか否かの程度で僅かに高くなった。


「もうご存じなのかと思いました。あの痛ましい事件の主犯格である彼についてです」


「襲撃事件について、私は詳しく知りません。彼の行動についてお話ししていただけますか?」


「もう過ぎたことではありませんか。

 彼は元々正規のチェルベニメク騎士団ではありません。亡命政府を起こしたのは騎士団の者たちです。

 彼ばかりを有利にしては、騎士団の者たちに不満が募ってしまいます」


「あなた達の求める処罰だのを決める上で、襲撃事件について私が具体的に知らないというのは問題です」


「そこまで仰るなら、私から説明致しましょう」


 アルバトロス・オセアノユニオン独立記念式典襲撃事件を起こした実行犯は、魔術計器整備士のフライヴァルト。

 一時行方不明になった共和国から派遣された帝政思想(ルアニサム)残党調査団のノザニアンエルフのドラグーティン・デミトリエヴィッチ。ウェストリアンエルフのヴァジスラフ・タンコスチ。

 政府の役人でありながら共に優秀な科学者でもあった。


 三人に共通するのは科学者であるという点だ。調査と同時期にユニオン内部で行われていた共和国への航空技術の技術供与で派遣されていた者も、調査団と同じホテルに宿泊していた。


 調査団の二人はホテルでの食事を決められていた。フライヴァルトはホテルの食事が気に入っていた。ユニオン指折りの高級ホテルであり、食事もよかったのだ。

 三人は食事の機会などで顔を合わせることが度々あり、また技術者と言うことで意気投合した。


 帝政思想(ルアニサム)残党調査が行われていた最中、妙な噂が出回ったのだ。それは調査団にルアニサムがいるのではないかというものだ。


 ドラグーティン氏が度々ホテルから出て行くのを、ホテル探偵が度々目撃していて、氏がルアニサムではないかと言う者も出始めた。

 しかし、実際にそうでは無く、人間側の調査に秘密裡に協力していた者と会っていたのだ。


「それは誰ですか?」

「やはり聞いていないのですね。クロエです。クロエはその時点で接近していたのです」


 疑いを掛けられたドラグーティン氏はヴァジスラフ氏に相談した。しかし、もうすでに明らかになっているとおり、ヴァジスラフ氏は最初からルアニサムだった。

 そのときはまだ本人以外に誰も知るよしもなかった。思想は抱いていてもすでに共和国の一市民として生きていたので仕事は仕事と受け止め、ユニオン内部にいると目されていたルアニサムを捕まえてしまえば問題にならないと思っていたので、黙っていたのだ。


 だが、折り悪く、ドラグーティン氏はクロエと接触を持ったことで不必要な偽の情報を知ることになった。


 実は、共和国内部では既に調査が済んでおり、ヴァジスラフ氏はメレデント元民書官と同じウェストリアンエルフであり、ルアニサムであることは既に判明している。本国に戻り次第、捕まるというものだ。

帝政思想(ルアニサム)残党調査団が帝政思想(ルアニサム)だったなど、共和国の威信に関わる。共和国内部の帝政思想(ルアニサム)を刺激する可能性もあるので、秘密裡に収監される――。


 どこで知り得たのか、クロエはヴァジスラフ氏が帝政思想(ルアニサム)であることを嗅ぎつけ、それを利用した偽情報を作り上げたのだ。

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