仮初めの宮中にて 第六十四話
「クロエは権力を集中させることで操りやすいようにしようと試みているのです。全ての権限を持つ一人を手中に収める方が、乗っ取りは簡単でしょう」
「ということは、その穴を作ったのはあなた方自身と言うことになりますね。私やウリヤ執政官には最後の自由を謳歌して貰うなどと言って知識を与えなようとしかったことが、大きな穴になりましたね」
「あら、私たちはあなた達に自由を与えました。自ら学ぶということを禁止した覚えはありませんよ」
なるほど、流れは読めた。私は無知であるとして、何も出来ないから顧問団たちにより権限を与えろと言うことなのだろう。
独裁的である皇帝により命令されれば、その立場は代え難いものになる。それにとどまらず、皇帝の命と言うことであり、より権力を強めることが出来る。
皇帝は無知なまま独裁者になり、皇帝の周りには皇帝に気に入られた者だけで固まる。それはもはや揺るぎない権力機構だ。
そうはならないために、クロエは私に接近していたのだ。
「そういうことだったようなので、今話題のクロエはありがたいことに知識を与えてくれました。私に無いのは経験だけであって、知識は身につけさせていただきました。出来ないわけではないのですよ」
二人は口を大きく開けて、ゆっくりと仰け反るような姿勢になった。
そして、顔を見合わせると困ったような顔をした。
「何から何までクロエの思惑通りと言うことですか。陛下は絶えずクロエの側にいるようですな。それはいずれこの国を乗っ取る為のしたたかな行動です。これは、由々しき事態ですぞ」
「そこで、明日をもってクロエを追放させていただきます。ですが理由がありません。陛下の口から何かを言っていただきたいのです」
そうきたか。否、そうだろう。
「あまり賢明な判断とは思えませんが。私は関与が薄いので把握できていないのですが、魔石等の手配は全て彼女が行っていたのでしょう? 今後はどうされるおつもりですか?」
「それは心配に及びません。使用しつつも、備蓄はしています。少なくとも、あと一年は持つでしょうね」
ギヴァルシュ政治顧問はどこにあるのか、自信たっぷりにそう言った。
しかし、顧問団たちは今後について話合いをしている様子はないとヴァジスラフ氏が言っていたのを覚えている。
あれ以降の会議に私は欠かさず参加していたのでその場で話し合われたことはないというのははっきりしている。
会議外で話し合われている可能性もあるが、ウリヤちゃんが気に入らないとか、クロエが気に入らない、誰を追放するとか、その程度のことしか話をしていないのは察しが付く。
真面目に一年後以降の今後について議論をかわしているとは到底思えないのだ。
それとも、その一年の間に、何か強烈な神風のようなものでも吹くと思っているのだろうか。
そもそも、私と顧問団には“今後”という言葉の受け取り方に隔たりだあるので今ここで何を言ったとしても平行線を辿るだろう。
それらについては何も言わずに、うーん、と考え込むようにただ喉を鳴らすだけにした。
「陛下の国であるはずの帝政ルーアが乗っ取られてしまいますぞ。あなたの権力が見直された今だからこそ、国を取り戻し手綱をしっかりと握り直すチャンスです」
ルクヴルール軍事顧問は身体を乗り出し、拳を胸の辺りに掲げている。
お飾り皇帝にお飾り執政官を作り上げた連中がどの面下げてそのようなことを言い出すのか。
言いたいことは山のようにある。追放すべきはこの顧問団たちではないだろうか。




