仮初めの宮中にて 第六十三話
ルクヴルール軍事顧問が合いの手を入れるようにそう言った。
クロエは顧問団たちの亡命政府での働き(運営そのものではなく連盟政府に有利なような働き)をよく評価していない。
私自身の評価としては、信用に値しない、である。
形は違えども私とクロエの共通見解としての評価であり、この二人を貶めるようなことは一言も言っていない。
「私は特にクロエやヴァジスラフ氏からあなた方への個人的な感想は伺っておりませんが?」
「いずれにせよ、クロエが私たち顧問団の印象を悪化させようとしているのは事実でしょう」
ギヴァルシュ政治顧問は深刻な顔でウンウンと頷いた。
私の中での評価などは気にもしていないのだろう。元々低いという事実が今の結果をもたらしたとも思ってもいないようだ。
「陛下、よく考えてください」
ルクヴルール軍事顧問はテーブルに身を乗り出し「クロエは連盟政府の者ですよ。それも諜報部員という。彼女のすることの一挙手一投足の全てが作戦の一環だと言うことを考えてください」と諭すようになった。
「よく分かりません。連盟政府の支援と称して亡命政府の中枢に入り込み、影響力を強めようとしているということではないのですか?」
「それが影響力を強めるにとどまらないのです。影響力どころか、最終的に乗っ取ることを考えているのです」
ルクヴルール軍事顧問が先ほどよりも深刻な顔をしてきた。だが、どこかわざとらしくに白々しさがちらつく。
私も「考えすぎなのではないでしょうか」と白々しい答えをした。
最終的にクロエが導こうとしているであろう結果に、考えが行き着かないほど私は自分が無知だとは思っていない。
例え誰であっても、ある程度の情報があればそこに考えが及ぶだろう。
「いえ、ただの乗っ取りだと考えるだけでも甘過ぎます。その裏に一体何があるのか、私たちも分かりません」
「あなた達も元は連盟政府の者でしょう? クロエ同様、連盟政府の思惑通りに事を運ばせたいのでは?」
「私たちはもう連盟政府とは独立しています。連盟政府内での経験を買われて、亡命政府の幹部として選ばれました」
何を言い出したかと思えば、と理解が遅れた。
自分たち顧問団がどういった経緯でここに至ったのか、誰によって選ばれたということ、その多くを説明せずにたった一言にまとめている。
「それはわかりました。ですが、私が皇帝として自覚を持つこととそれがどのような関係があるというのですか?」
「今亡命政府は私たち四人の顧問団が各々に分け与えられた義務を遂行しています。それぞれにそれぞれが独立していて、互いの領域には踏み込まないように統治しています。
陛下が今日態度を改めたことを受けて、今後クロエは全ての意思決定権を皇帝に委ねるべきと言い始めるでしょう」
「それは不可能でしょう。私は政治経済などの経験はありません」
ルクヴルール軍事顧問は「大変申し訳ないですが、それこそが穴なのですぞ」と大げさに身体を仰け反らせた。




