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仮初めの宮中にて 第六十一話

 その声色にはいつもの不気味な調子の良さがなかった。淡々としてそう言ったのだ。

 おそらくそれは本心からそう言っているのだというのも、マルタンに来て過ごすうちに理解し始めた。

 エルフなど敵だと喚いていた連盟政府の諜報部の人間の考えとは思えず、少々意外にも感じた。


「あなたがそう仰るのは意外ですね。ですが、その言い方だと、今回動いてくるのが共和国だというのは分かっているのですか?」


 テーブルから飛び降りて壁の地図に向かった。そして、オレンジと赤の縁を丸くなぞった。親指と小指を立てると、小指を市庁舎に刺し、それを軸に親指をコンパスのように回した。


「二.五マイルくらいかしら……」と呟くと続けた。


「共和国とユニオンでしょう。

 帝政の亡霊を徹底的に祓う為の共和国。領土回復のつもりのユニオン。利害の一致で共同作戦をとるのでしょう。

 ユニオンは共和国に対して非常に友好的であり、まして自国だけでなく北の国境付近も絶えず火花が散るような現状では、圧倒的な軍事力を誇る共和国軍のマルタンへの派兵に抵抗を示すことはないでしょう。

 よって共和国のエルフがマルタンで作戦行動をとるのは必至。市民のいる状態で市街戦が起きれば犠牲をゼロにするのは不可能。

 まして難民エルフも多いこの街で、人からエルフ、エルフから人への攻撃は今後、やったやってない、手を出したのは先だの後だのと論争に発展しますからね」


 地図を見るのを止めるとクロエはこちらへ振り返った。そして、


「私たち連盟政府は、隠蔽工作の為に、真っ先に判別の着きやすい被害者の死体の耳を切り落とすという残虐極まりないこともしますからね。

 解剖で判別に利用される大きな違いの出る大腿骨や骨盤などはバラしてみなければ分かりませんからね。まず耳を……」


 と言いながら両手を耳の前にだし、人差し指と中指を立てて挟むような仕草を見せた。

 ウリヤちゃんはその仕草に背筋を凍らせて身震いしていた。


「平和的な理由ではないのですね」クロエにそれを期待していた私も愚かだとは思うが。


「冷たいようですが、私は国家に仕える身です。

 市民の安全第一と言いますが、そのようなものはうわべであり、まず第一は国家のためなのです。

 それが回り回って市民の為にもなると言うものです」


「悪辣とも思える忠誠心を持つあなたに善良な思考に基づく行動を求めたのが間違いでしたね。

 しかし、過程はともかく市民の安全を第一に考えなければ。どうしたものでしょう」


「お悩みにならないでくださいまし。簡単ですわ、アニエス陛下殿。あなたが暴君であればこそ、それは容易いです」


 そう言うと右手を出し、人差し指をくいくいと動かした。どうやら耳を貸せというようだ。


「ウリヤちゃん、おっと、ウリヤ執政官もよ。ほら、こっちいらっしゃい」と睨むように私とクロエの様子を覗っていたウリヤちゃんに手招きをして呼び寄せた。

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