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仮初めの宮中にて 第五十九話

 ギヴァルシュ政治顧問は焦りだし、え、え、と言いながら落ち着き無く動き始めた。

 逃がすわけもなく、左右に避けようとした彼女の動きに合わせて頭上のポータルを動かして追いかけた。

 そして、いよいよ額の高さまでポータルが降りてくると、ギヴァルシュ政治顧問は助けを求めるようにルクヴルール軍事顧問を見た。だが、ルクヴルール軍事顧問は視線を泳がせながら他の方向に顔を向いた。

 ギヴァルシュ政治顧問は今度はクロエの方へ振り向いた。

 しかし、哀れにもクロエは笑顔になり別れの挨拶でもするかのように右手を振り始めた。

 さらに手を振るのを止めると「では故郷にお帰りになるギヴァルシュ氏にかわり、誰が政治顧問を担当するか話し合いでも致しましょうか。三流役人崩れのギヴァルシュ元政治顧問でも務まるような役目なので、誰がやっても代わりは務まるでしょう。ならば、私がやりましょうか?」とギヴァルシュ政治顧問以外をぐるりと見回した。


「そうですね。私はあなたが嫌いですが、ギヴァルシュ元政治顧問より建設的かもしれませんからね」


 ギヴァルシュ政治顧問は立ち上がれないのだ。

 立ち上がれば上半身はポータルを抜けそこはもうサント・プラントンの上空。

 どのような景色を見ているのか私には分からないが、彼女にとっては見たくも無い景色なのだろう。


「おやめください! お願いします!」


「そう? ところでサント・プラントンの空は青いかしら?」


「お願いします! 本当に止めてください! 誰か! 誰か、陛下を止めて!」


 しかし、誰も声を上げない。椅子から立ち上がろうともしない。

 メイドさんたちは相変わらず微動だにせず、ルクヴルール軍事顧問も影の薄くいるのかどうかも分からないような僑エルフ二人の顧問さえも。


「本人以外誰も私を止めようとしませんね。どうやら、残念なようですね」


 このままの調子では本当にサント・プラントンの上空に放り出してしまう。本当に放り出すにしても、その前に色々と引き出しておかなければいけない。私はポータルを下ろす速度を僅かに落とした。


「顧問団たちは顧問団たちだけでもう少しまとまっているのかと思っていましたが、そうでもないのですね。

 ではどうすればいいか、あなたの口から言っていただければポータルを閉じますよ。

 あなた以外の方からと言うのもありでしたが、どうもそれではあなたはサント・プラントンに帰るのが決まってしまそうなので、大目に見ましょう」


「分かりました! で、ではまず陛下がご提案なさった住民の避難について、住民避難の必要性について検討する準備がある可能性についての議論の準備をこれからしていく用意があるかどうかの是非を問う検討を始めます!」


 焦って口走ったことであり脈絡が無くなってしまうのは理解出来るが、あまりにもずれている。


「……何を言っているのか分かりませんね。それでは議論するかもしれないと言う、いつもと変わらないですよ。焦っているにしても、支離滅裂すぎです。

 ゆっくり深呼吸して懐かしいサント・プラントンの空気をよく吸って落ち着いてから、言葉をキチンと選んで短く言った方が相手に伝わりますよ。

 深呼吸ができる十秒くらいなら待ってあげますから」


「実施です! 分かりました。非難を実施致します! 当日、住民への避難勧告を出します! 私たち政府が積極的に勧告を行います!」


「勧告ではいけませんね。避難警報が出ても避難しない人の方が多いと、私の知人はよく言っていましたね。

 そちらは自然災害でしたが、それで多くの人が亡くなったとも。

 そうですね。何か、こう、もっと強制力のある――」


「マルタン市街地に避難を推奨します!」


「やっぱりダメそうですね。それではただの民間人のギヴァルシュさん、ごきげ……」


「分かりました! マルタン市街地全域に避難命令を出します! 従わない者は強制的に避難させます!」


「はい、よろしいでしょう。では皆で仲良く指示通りに動いてください」


 ポータルを持ち上げて、手で握るような仕草をしてそれを閉じた。

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