仮初めの宮中にて 第五十八話
ヴァジスラフ氏は大声で笑い出した。ルクヴルール軍事顧問はまたしても侮辱されたことに怒りの形相になった。
「皇帝に立場が近いからと言って好き放題言いますね、ヴァジスラフ氏」
ギヴァルシュ政治顧問はルクヴルール軍事顧問にそのまま殴ってしまえとでも言いたそうだ。
私は「今」と私を無視して行われている三人のやりとりに割り込んだ。
「私が、皇帝である私が顧問団たちに問うています。従うか否か。顧問団たちはそれ以外に返答を許した覚えはありません。返答がない場合は問答無用で、この場で追放致します」
「あら、陛下。では杖も無いのに、どうやって魔法を使うのですか?」
「ギヴァルシュ政治顧問、あなたがいつまでも余裕な理由が今分かりました。あなたはどうやら勘違いされているようですね。時空系魔法はエルフの秘術。厳密にそれは魔法ではなく、魔法のようなもの。人間の魔法とは仕組みが根底から違いますよ。それが何を意味するか、分からないほど愚かではありませんね?」
そう言うと思わせぶりに右手を上げ人差し指を天に向けくるりと回した。
ギヴァルシュ政治顧問の頭の上にポータルが開いた。そには青空が広がっており、高い位置に開いたので風が轟々と音を立てている。その青の中にマルタンにはいないミサゴが黒い点のように旋回していた。サント・プラントンの近くを流れる河川は大きく、本来海にいるはずのミサゴが増えているのだ。
「サント・プラントンに開いたのですが、少し場所がずれましたね。お帰りになりたければ、そのままポータルを」
ギヴァルシュ政治顧問の余裕に溢れ脅しをかけていたような笑顔が一瞬にして引きつった。怒りではない震えが掌を走り抜けている。
「止めていただけますか?」
だが、まだギヴァルシュ政治顧問には笑顔が見えている。本当に送り返すわけが無いだろうと高をくくっているのだろう。
何様だ――。少しばかり脅せば折れると思ったがそうではないようだ。
先ほどからの態度もあり、思わずムッときてしまった。このまま本当に送り返してもいいのではないだろうか。
私は人差し指をゆっくりと下げていった。それにつられるようにポータルが彼女を包み込もうとゆっくりと降下を始めた。




