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仮初めの宮中にて 第五十二話

 これまでの人生で聞いたことのない、しかし、何やら調子の良い音楽が聞こえる。ずんずんと突き上げるような重低音が繰り返される度にお腹に響く。

 どこからこのような音楽の収録された魔石を取り寄せたのだろうか。


 そして部屋の空気は熱く、肌に染みこむような湿気がある。


「あ、あの、そんなハードなことして大丈夫なのですか?」


 会議で話を聞いて貰えないことをヘマさんに相談しに、ヘマさんの部屋をウリヤちゃんと共に訪れていた。


――のだが、ヘマさんはフンスフンスと艶めかしい鼻息を荒げている。露わになった二の腕や太ももからは玉のような汗が噴き出ている。それは集まると垂れ、滴となって地面に落ちていった。

 この部屋のむあむあとした熱気はヘマさんとアニバルの身体から巻き起こるものなのだ。


 アニバルの方を見たが、彼も薄着で短い息を上げている。


「ここから出たらやらねばならぬことが山積みなのじゃ。病み上がりだからと言ってベッドにしがみついていては動けなくなるのじゃ」


 ヘマさんはこれまたどこから持ち込んだのか、チェストプレイスマシンを汗だくになりながら持ち上げているのだ。

 私が治癒魔法をかけて以来、体調は凄まじい速さで元に戻り、今ではこの有様である。元気になったのは非常に喜ばしいのだが、無理をしているのではないか心配になってしまうほどだ。

 ウリヤちゃんはいつも通りのように気にもしていない。ユニオンにいた頃はこれが日常だったのだろう。

 アニバルはアニバルでヘマさんのことなど気にも掛けず、トレッドミルをかなり速くして走っている。

 短パン(すんごいモッコリしてる)に短いシャツ(硬そうなポッチが二つ)から大木から切り出された丸太ような太ももや腕がトレッドミルの振動に会わせて前後している。


「ところで、何の話じゃったかのう?」


 チェストプレスが閉じ切ったところで止まると、両腕前腕の向こう側からそう尋ねてきた。

 私が何か言おうとすると、「ああ、そうじゃ。そなたは何者じゃ?」とゆっくりと息を吐き出しながら汗ばんでテカる顔を覗かせてきた。腕には青筋が浮かんでいる。


「皇帝になる者ですが……。いちおう」


 こんな状態で話をきちんと聞いてくれているのか、不安になり口がすぼんでしまった。


 ヘマさんは「いちおう?」と言いながら大きく開かれた両腕を再び閉じ、チェストプレスで上半身に負荷をかけた。


「皇帝ではないのか? ならばもっと毅然としていなければならぬ。

 皇帝は帝国の中で唯一にして一番上の存在。何か指示があれば、人差し指さえも使わず顎を動かす。

 本来は会うことはおろか、見上げることさえも許されぬ者、叶わぬ者がいるほどの存在。遠くに小さく見えることすら儀式に等しい。

 庶民派、などと言っているうちは皇帝などほど遠い。時には命さえも踏みにじる。

 それも一や二と言った数ではなく、要不要のみで判断する」


「そんなの、ただの暴君――」と言いかけたが、ヘマさんは「暴君かどうかを決めるのは歴史じゃ」と再び両腕を開き汗だくの顔で睨みつけてきた。

ヘマの部屋は、一昔前のクラブ全盛期の頃の銀座のアバク○ンビーアンドフ○ッチの店舗のような雰囲気です。

ビートが空気をビリビリ震わせている薄暗い店内で店員が踊りながら服を畳んでいる様な感じ。

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