仮初めの宮中にて 第四十七話
このまま芦に引っかかって揺れているだけのボロ布ではいけない。
会議では発言だけではなく、問いただすこともした。
私からの、ああせよ、こうせよ、という提案はもとより受け容れられない。だが、顧問団たちはこちらからの問いかけには答えざるを得ないのだ。
翌日の会議のときに私は動き出した。
スピーチの議題に移るや否や「スピーチの日程についてお伺い致します」と私はギヴァルシュ政治顧問の話に割って入った。
「してもよろしいでしょうか」ではダメなのだ。無理矢理に割り込み、声を張った。
すると顧問団たちもさすがに静まりかえった。
その沈黙に飲まれて言葉が詰まりそうになってしまったが、力を振り絞り「人が多い休日を選んだ理由についてお聞かせください」とギヴァルシュ政治顧問を真っ直ぐに見つめて問いただした。
ギヴァルシュ政治顧問は強ばっていた表情を呆れたように変えると
「何度も申しておりますが、ご理解いただけるまで何度でもお話し致します。
より人が多く集まる休日でなければ、陛下のお言葉は広く届けることが出来ません。
あなたの言葉はより多くの人に届けなければいけないのです」
と流れるように言った。
「ではキューディラジオでの放送は必要ないかと思いますが?」
「それでは世界の人に届かないでしょう。一地域の者だけに伝えるよりも、全世界に届ける方がより重要です」
「ではキューディラジオだけで良いと思いますが?
キューディラジオの普及率は、ユニオンに所属しているマルタンでは高いはずです。友学連も同様。
北公は安価な受信機が早い段階で開発されほぼ一家に一台置かれているほどです。
連盟政府の内部でも一家に一台と言うほどではないにしろ、街頭に出れば目にする機会は多く、普及していると言えます」
「だからそれでは……」
ギヴァルシュ政治顧問は呆れたような顔をして首を回しながら私の言葉を諫めようとした。
「矛盾が見えますね。何か、当日に市民が街にいなければいけない理由でもあるのでしょうか?
ルーア皇帝が再び皇帝として宣言するというのは、焚書まで行い帝政を徹底的に排除した共和国が黙っているとは思えません。
さらにマルタンは元はと言えばユニオンの土地」
その刹那、あえてわざとらしく、クロエとギヴァルシュ政治顧問とルクヴルール軍事顧問を順番に見つめた。眼瞼と鼻筋が動いたのはクロエだけだった。
「ユニオンと共和国が軍事的行動に出てもおかしくありません」
それに乗じて連盟政府も動かないと言い切れない。
「そうですな」
ルクヴルール軍事顧問が突然割り込み「だからあえてその日にやるのです」と言い切ったのだ。
「私は戦いに関してはプロフェッショナルだ」と言いながら身体をテーブルにのりだした。
「これは市民の盾なのです。
聞こえが悪いかもしれませんが、市民なくして王国無し。あなたをお守りする為に皆の力を借りようと言うことなのです。
共和国もユニオンも、よく発展し人民による国家。人権意識も非常に高い。敵国であろうとも武器を持たない民間人に犠牲を出させるようなことはしないでしょう。
つまり市民がいさえすれば無闇な戦闘は行わないということなのです。
皇帝あっての臣民。臣民あっての皇帝。一蓮托生とはまさに開かれた帝国!
にわかに民衆が中心と謳う国家より、より民衆の力が強いとは思いませんか!
陛下、あなたはお優しい方だ。市民を盾にするなど到底許すことなど出来ないでしょうな。
だから、黙っておりました。しかし、これはあなたと市民の為の事なのですぞ」
と満面の笑みを浮かべながらそう言った。
すると、クスクスと笑い声が聞こえた。何度聞いても引きつるような笑い声に慣れることが出来ない。この会議に参加する者の中でこういう笑い方をする者は一人しかいない。
クロエの方を振り向くと「プロフェッショナルねぇ」と彼女は書類を見ながらぼやいた。




