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仮初めの宮中にて 第四十六話

 ヴァジスラフ氏は黙り込んでしまった。何やら尋ねてはいけない事を聞いてしまったような気がした。


「エルフとエノシュが和平交渉を始めた。互いの文化圏をある程度知りつつも互いに蛮族と見なし合っていた永い帝政では有り得なかったことだ。

 案の定、現共和国は混乱に見舞われた。そこへ来てエノシュたちの分離独立が相次いで起きた。混乱と機に乗じて興したのだ」


 広く知られたありきたりで曖昧な回答をしてきた。これ以上の追求はマフレナの負担になる。私も言葉を選び、黙り込んでしまった。気まずい沈黙が流れた。

 するとマフレナが耳に顔を近づけてきて「陛下、そろそろ」と耳打ちをしてきた。


「そうですか。お時間を取らせましたね。あなたの立場は分かりました」


「分かってなるものか。幾千年の歴史を談話程度で人間の小娘に理解出来るものか」


「私はもう娘と言うほどに若くはありませんよ。今後、会議でより議論をする必要があることもよく分かりました」


 ヴァジスラフ氏は黙って頷いて椅子から立ち上がり、部屋を出て行った。

 私たちもマフレナと共に自室に戻ることにした。


 部屋に戻る途中、廊下でクロエと会ったので、彼女からも話を聞くことにした。

 その際にマフレナは「陛下、厨房のイルジナと交代の時間ですので失礼します」と話が始まる前に一礼してその場を後にした。

 仕える者を残してその場を去るなど、メイドの態度に厳しいクロエは怒り出しそうだったが、何も言わずにマフレナの背中を見送った。それどころか、姿が見えなくなると「実に賢く、忠実な召使いですこと」と褒めていた。

 その後に私に用事を尋ねてきた。


 クロエにヴァジスラフ氏と同様のことを尋ねると、やはり軍隊を含めた臣民の今後については一切話されていないという回答を得た。

 さらに踏み込み、顧問団たちはクロエを介して亡命政府に入り込んだ者たちなのかと尋ねると、隠し立てすることなく、そうだ、と答えたのだ。

 あまりにもはっきりとした返答で、連盟政府による内部からの侵略かどうかと尋ねることを忘れてしまった。

 それよりも先に思い浮かんだ「ならなぜ、あなたと顧問団たちは足並みがずれているのか」と尋ねると「三流役人の考えることなんて分かりませんわ」としか言わなかった。

 小首をかしげ、両掌を天井に向け、視線を上に外転させながら、わざとらしささえ感じる返答は明らかに嘘だというのは分かった。クロエは何かを知っている。

 しかし、そのわざとらしさの中に、ただ何かを隠しているだけではなく、私に対する“察しろ”といようなメッセージも込められていた様な気がした。


 このとき私がすぐに気がつかなかったことを、後に後悔することになった。

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