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仮初めの宮中にて 第四十四話

氏はさらに質問を重ねてきた。テーブルに上半身を載せるように前屈みなり、やや問い詰めるような姿勢になっている。

私はギンスブルグ家やマゼルソン家などのように裕福であったり高貴だったりという羨望の眼差しを向けられるような家柄はなく、ましてや人間。皇帝となることに対して全くの後ろめたさがないかと言えば、そういうことはない。だが、イズミさんの目的の為には使えるものは全て使わなければいけない。引っ込んでいてはダメなのだ。


「私は、全くと言っていいほどに意見を取り入れて貰えないのが歯がゆいというのが正直なところです」


本当は歯がゆいなどでは済まされないほどに、悔しくて仕方がない。私はイズミさんの目的の為に、皇帝の力を手に入れて事を治めようとしていたはずなのに。もちろん、ことあるごとに私は彼の名前を出しているが、私自身も願いでもあるのだ。

拳を握れば力が入り、爪が食い込む。


「それが問題なのだ。皇帝の意思は超自然的なものでしかなくなってしまうのだ。無視しても良いただの天の声になりさがってしまうのだ。残念なことに、既にそうなっている」


現実は厳しい。

事態は最初からそう言う方向で流れていたのだろう。私は顧問団たちから相手にされていないと分かりつつも無知を理由にどこかで彼らに身を任せていたところがある。それが彼らをますます増長させたのだろう。今私は、時代の潮流の中でクロエやヴァジスラフ氏という皆底から立つ根の深い芦に引っかかっているぼろきれなのだ。芦は絶えず波に揺れている。このままでは流されてしまうのだ。


「やはり私はお飾りと言うことですね」


氏は頷きもせずに「その良い例が執政官だ」と言いながらウリヤちゃんをちらりと見た。それまでウリヤちゃんは話が分からずに困ったような顔で黙っていたが、突然話を振られたことに驚いた。しかし、すぐさま表情を険しくして顎を引き氏を睨み返した。


「帝政ルーアに執政官などという立場はなかった。顧問団たちが推し進めている王政であれば、王たちが執政官みたいなものだ。何れにせよ必要の無い立場だ。だが、執政官はともかく、私は皇帝を装飾品として扱おうとしている状況を許さない。以前はどこの馬の骨とも分からないような者が皇帝になるくらいなら、いない方がマシだと思っていた。だが、そこへきて皇帝の血筋を由緒正しく引く者、しかも王政を行おうとしたフェルタロス家の者であるあなたが現れてしまった」


氏は鼻から息を吐き出すと「私も引っ込みが付かない」と溢した。


「では、あなた自身は何者なのですか?」


「私は帝政思想(ルアニサム)を抱く者。国家の統治は皇帝によってなされるべきと考えている者だ」


沸き立つように髪を逆立て肩を膨らませた。武者震いのような自信に満ちた回答をしてきた。

なるほど、ようやく意味が分かった。氏は私を嫌いつつも、皇帝の末裔であるために皇帝として見ている。その皇帝が唯一絶対にして治めるべきと考えているのだ。だから、氏は私を会議でも前に出そうとしてくれるのだ。

嫌悪を抱く味方とは、ある意味で最も心強い。

だが、問題はそれでは終わらない。この“嫌悪を抱く味方”と同じ方向を向いている者が一人いる。それが何ともややこしい存在なのだ。



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