表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1420/1860

仮初めの宮中にて 第四十二話

 人間とは違うところがあるとすれば、人間の宗教のように神の存在を語り政治への影響力を大きく持ち合わせるという程度ではなく、エルフの社会、つまりかつての帝国では神その者が政治を行うに等しい。

 人間の神は万能であるが故に信じられ、万能である癖にその力を持ってしての完全な政治を行わない。

 いるかどうかもわからないような存在に恐れひれ伏し、不可解な現象は神の所存だと市民を脅す道具にされ、商人たちよりも狡くカネを集めるシステムに組み込まれ、宗教家たちは政治的影響力を持つ。

 宗教家たちは国や国民の為ではなく権利と信仰の為に政治を操り、それで国が滅びれば神の意志だと言い訳が出来る。

 だが残念ながら、エルフの宗教はそんな完全なふりをした不完全なシステムではないのだ。

 もとより、エルフに宗教はない。人間を学んだエルフが、エルフのシステムが人間の宗教に似ているようだと言ったから宗教に例えているだけだ。


「その結果、宗教は懐疑的に見られることが多くなり、そこへ来て商会の台頭により資本が重視されるようになりました。それも連盟政府成立以前の話です」


「エノシュはエルフに神を教え、エルフの末裔によって神を殺されたとは皮肉だな」


 ヴァジスラフ氏は嘲笑した。しかし、咳き込むと気を取り直した。


「皮肉を言っている場合ではなかったな。だが、帝政思想(ルアニサム)をあなたにも分かるように宗教で例えて話を進めるとしよう」


 氏は姿勢を正した。


「“愛はいつまでも絶えることはない。しかし、予言はすたれ、異言はやみ、知識は廃れるであろう。”」


 そう言うと黙り込み間を開けた。

 私はそれに聞き覚えがある。クロエがイズミさんとノルデンヴィズのロフリーナで密談してとき、話していた事の中で出てきた一節だった。


 私の表情を見て氏は「ご存じかね?」と尋ねてきた。私は小さく頷いた。


「これはエノシュたちの古代の宗教聖典の一節だ。愛が素晴らしいことを語っている。

 だが、私はこれをそれだけだとは思わない。

 愛は目の前にあれば夢中になるもの。それは永遠だと錯覚さえする。だが、この世に廃れないものは存在しない。

 つまり、教えもやがては廃れると言うことを示唆していると考えている」


 教えが廃れる、それは帝政思想(ルアニサム)の主体である皇帝が絶対的存在であるという考えもやがては廃れるということだ。現に共和制移行がその一端と考えてもいいだろう。


「つまり、顧問団たち、と言うよりもこの亡命政府を興した紅袂の剣(チェルベニメク)騎士団は既に帝政思想(ルアニサム)の原形を失っていたということですか?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ