仮初めの宮中にて 第四十一話
「まず」と言って咳き込み、間を開けた。
「亡命政府は今後どのようにしていくつもりなのでしょうか?」
ヴァジスラフ氏は「どのようにとは?」と小首をかしげた。
「今後、このマルタンの地で帝政ルーアとして国家を運営していくのは不可能です。
居座り続けてそのまま帝国というのは、周辺国家の、特に共和国からの圧力、軍事的劣勢、資源の自己供給率の低さなどの観点からして、無理だというのはあなたも分かっていると思います。
今後、万が一承認が得られても、否、得られたときにこそ国土は存在しなくなると私は考えております。
おそらく連盟政府かユニオンのいずれかと交渉をして国家として承認を得たとき、マルタン全域の返還を条件にされるのは明白です。
それはそれです。仮に国土は無くとも国家として存在することになります。
ですが、それは国家という概念を手にしただけです。国土が一度でも出来た以上、そこに確かに存在した、亡命政府に帰属した市民や軍人の権利、生命、財産その他は保障されるのか、そこまで考えているのでしょうか」
「それは答えられない質問だ」と即答した。
「なぜ?」
覆い被せるようにすぐさま尋ね返すと、氏は大きく鼻から息を吸い込むと、
「あなたが来られる前から、少なくとも私のいた会議では一切話されていない内容だからな」
とやや困っているようにも受け取れる仕草を見せながらそう答えた。
氏の言い方を鑑みれば、ヴァジスラフ氏は顧問団たちと友好的ではない。
いっそのこと、それをそのままヴァジスラフ氏に正面きって尋ねてみようか。胸を膨らませて息を吸い込んだが、胸郭がいっぱいになったところで止めた。
この話は全て聞かれているのだ。
マフレナはおそらくここで話されていたことを包み隠さずギヴァルシュ政治顧問に報告しなければいけない。
彼女は私やウリヤちゃんとは親密な関係を築いていた。少なくとも私は、彼女を信頼している。言わないで欲しいと一言、私からお願いすれば嘘をついて誤魔化してくれる。
しかし、親しい間柄であるからこそ、誠実な仕事をする彼女に、性格的に真反対に位置する嘘をつかせるようなことを強いたくはない。
本音を押さえ込み「そうですか」とだけ返答した。
「では、お尋ねしますが、顧問団たちは帝政ルーアの政治・司法・軍備・金融を司っていますね。
それすなわち帝国の手足。この亡命政府は帝政思想によって築かれた政府。
つまり、彼らは帝政思想であるということでよろしいのですか?」
「帝政思想、そうだな。顧問団たちも帝政思想だ。だった」
だった、と言う言葉に反応するよりも先にヴァジスラフ氏は話を続けた。
「帝政思想とは帝政思想。つまり共和制ではなく、皇帝による支配が行われる国家を導くことを絶対と考える、人間で言うところの宗教に近いものだ。教祖は言わずもがな皇帝」




