仮初めの宮中にて 第四十話
私とウリヤちゃんは顧問団たちから完全に無視されているわけではない。
だが、会議においての発言権は無く、発言内容の効力も皆無に等しい状態だ。それでもクロエに連れだって無理矢理参加し続けていた。
これまで話し合われる中で私はヴァジスラフ氏の立場を明確することが出来なかった。
繰り返しになるが、ヴァジスラフ氏は亡命政府の中枢でありながら、マルタン占拠から政府として名乗りを上げるまでを成し遂げたチェルベニメク騎士団ではない。
顧問団たちの全員もチェルベニメク騎士団ではないが、そちらはそちらで騎士団の意志を継ぎ統一された意思を見せている。
氏は元はといえば共和国から派遣された帝政思想残党調査団のエルフだ。
渦中にいるというのならチェルベニメク騎士団であり、尚且つ権力も最高のものを有していてもおかしくない立場のはずにもかかわらず、顧問団たちという別の代表団を立ち上げられた上に会議からも追い出されようとしているのだ。
それにとどまらず、全くの部外者であるにもかかわらず顧問団や会議に対してより強権的に動けるクロエと目的を同じにしている様子も覗える。
事情が複雑なのは分かっているが、複雑であることを理解するだけでは今後の行動の為には不十分なのだ。私はヴァジスラフ氏に立場の違いを確かめることにした。
私にとって意味の無い会議の後、迎えのマフレナを待たせて廊下でヴァジスラフ氏をつかまえた。
「ヴァジスラフさん」と呼びかけると、氏は驚いたような顔をしてこちらを向き直った。
「何か用事でもあるのか、陛下殿?」
驚いた表情をすぐにいつもの眉間に皺の寄った不機嫌な顔に戻すと、嫌味交じりな態度と言葉を返してきた。
「あなたの立場について何点か確認しておきたいのですが、少々お時間いただけますか?」
「何だ、追放でもするのか?」
「そんなはずないでしょう」
繰り返しになるが、ヴァジスラフ氏は顧問団たちとは明らかに意見が違う。
私にとって顧問団たちは友好的な態度は取っていて敵ではないが、意見に耳を傾けようとはしない。それどころか私やウリヤちゃんの話、存在を存在だけの価値としている。
一方の氏は、友好的な態度は一切無くむしろ強烈な敵意や嫌悪すら感じる。しかし、その反面、会議での私の発言や提案に対しては聞き入れる態度と一定の理解を示すのだ。
国家運営に友情や共感を求めてはいけない。それ故に、私が皇帝であり国家運営に名前だけの形であっても加わる以上、現時点で重用すべきはヴァジスラフ氏なのだ。
「立ち話もなんでしょう。どこか椅子に座りお話がしたいのですが」
部屋を出て行こうとしていたギヴァルシュ政治顧問の目がこちらを向いた。そして、マフレナを呼び寄せると何かを指示した。マフレナは言われた何かに小さく頷くと、こちらへ戻ってきた。
それをヴァジスラフ氏は視線だけで見ていた。マフレナが戻ってくるよりも先に「このまま会議室で話した方が良いな」と小さな声で囁いた。そして、椅子を引きそこへ腰掛けた。
マフレナは私を見ると視線で何かを伝えてきた。おそらく監視しろと指示が出されていたのだろう。
確かに、会議室外で話をすれば不穏な企てをしていると怪しまれても仕方がない。
「そうですね。大したお話しではないのでこのままここで済ませてしまいましょう」と出て行くギヴァルシュ政治顧問にあえて聞こえる程度の声でそう答えた。
ヴァジスラフ氏の向かいの椅子にウリヤちゃんと共に座った。マフレナは私のすぐ後ろに立ち、行儀良く背筋を伸ばして気配を消した。
カップの紅茶は残り僅か。だが、それに新たに湯気の立つ香ばしい紅茶が注がれることはなかった。




