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仮初めの宮中にて 第三十八話

 それから右足も治癒魔法をかけ始めた。

 ヘマさんはしばらくかけられている治癒魔法の緑色の光を黙って眺めていたが、「そなた、先ほど苗字なんと言ったかのう。聞き間違いでなければ、モギレフスキーともうしたか?」と尋ねてきた。


「そうです」と治癒魔法を右足、脹ら脛から太ももにかけてゆっくりとあてがいながら答えた。


「わらわは遙か昔じゃが、モギレフスキーと名乗る男に助けて貰ったことがある。名前は確か……、アルフレッドだったかのう」


「それ、たぶん私の父ですね」


「なんじゃと!?」と思い切り身体を起こした。だが、痛みが出て「アガッ」と悲鳴を上げてベッドに倒れ込んだ。


「はいはい、動かないでくださいね」と言ってベッドの位置を正したあと、「アルフレッドという名はありきたりですが、モギレフスキーなんて苗字、珍しいですから間違いなく父ですね」


 ヘマさんは事実に目を見開いて首を回しながら「あの男、こんな娘まで」と驚いたような声を上げている。少し怒っているような、それでいて懐かしむような声色だ。


「しかし、そなたはあまり驚かない様子じゃな。このようなは慣れた土地で偶然に会ったというのに」


「父はあちこちで色々なことをしてきましたから。これまでも助けて貰ったって言う人は少なからずいたので」


「昔、父の商談についていったとき、フェストランド領のヤプスールで武装集団に襲われたことがあったのじゃ。

 わらわはその者たちに街の娘たちと共に人質にされてしまった。そのとき、そなたの父上に助け出して貰ったことがあるのじゃ」


「大昔は現在のように街と街、村と村がキューディラでつながることがなくて移動手段も馬車だけでしたからね。牧歌的で地域が孤立していた時代ならでは事件ですね」


「大昔とはなんじゃ」とヘマさんは語気を強めた。「そんな昔ではないぞ。失礼なヤツじゃの」とむくれた。


「ごめんなさい」


 視界の隅でアニバルが笑っている。ヘマさんがいつもの調子に戻ってきたことに安心しているのだろう。


「そなたの父上、アルフレッドも失礼なヤツじゃったな。初対面のときから隙あらばわらわの胸ばかり見ていたからの。

 まぁわらわは昔から胸も大きく、隠しても隠しきれないほどの美貌が身体中から漏れ出していたから仕方ないと言えばそうなのじゃが」


 その情報は聞きたくなかったかもしれない。苦笑いをして誤魔化した。


「親子二代に助けられることになるとは思いもよらなかったのじゃ」


「父の話、もっと聞かせてください」


 それから治癒魔法をかけ続けている間、ヘマさんは嬉しそうに話を続けていた。

 話し相手も少なかったのだろう。終始笑顔を絶やさず、父の話をし続けていた。話すことでヘマさんの気も楽になっていったようだった。

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