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仮初めの宮中にて 第三十五話

 アニバルが再び止めようと手を伸ばしたが、ベッドの上のヘマさんは弱々しく首を左右に振り、ゆっくりと手をウリヤちゃんの頭に乗せて軽く撫でた。


「ウリヤ、元気はあるようじゃな。わらわは安心したぞ」


 ウリヤちゃんはそれを聞くと顔を上げた。そしてヘマさんをじっくりと見ると、「おばさまは元気ない」と悲しそうな声を上げた。


 私もベッドに近づいてヘマさんの様子を覗った。イズミさんの話ではまあまあ美人に見える若作りのおばさんだと聞いていたが、今はまるで年相応、それ以上のおばあさんにすら見えた。

 髪は本来のイスペイネ系特有の銀髪なのか、それとも白髪なのか分からないほどに白く、枝毛が多く、まとまらずに空気を含んで膨らみボサボサになっている。

 腕は痩せ細って枝のようで、服越しにも分かるほどに身体は痩せていた。


「ウリヤ、すまんのう。わらわは動けないのじゃ。どうも身体が言うことを聞かないのじゃ。寄る年波には勝てぬ、ということかのう」


 そう言いながらぼそぼそと笑った。


「そんなことない! おばさまはおばさまだけど、まだまだ元気だって!」


 ウリヤちゃんは必死になってヘマさんを励ましている。しかし、声色に絶望が乗ってしまい悲痛なものになっている。


「前みたいに私のこと叱りまくってよ! お願い!」


「それは出来ぬなぁ。もう。二度と出来ぬやもしれぬ」と目を細めて悲しそうな微笑みを浮かべた。


 アニバルが「奥様はもうお疲れだ。ウリヤ、少し休ませてあげてくれ」とヘマにしがみつくウリヤちゃんを優しく引き剥がした。


 ヘマさんはやりとりを見ていた私に気がつくと、「そなたは誰じゃ?」と首だけを動かしてこちらへ振り向いた。


「私はアニエスです。アニエス・モギレフスキーと申します。皇帝になる者です」


 ヘマさんは、ああ、と納得したようになると「話題の赤髪の女じゃな」と頷いた。そして、頭の上から足の先までゆっくりと見定めるように私を見つめてきた。


「ウリヤが世話になったようじゃの。この子は他人に心をあまり開かぬ。わらわも苦労した。そなたは仲良く出来ているようで安心した」


「おばさま、ごめんなさい。私、素直じゃなかった。だから元気になって」


「大丈夫じゃ。わらわは疲れやすいだけなのじゃ」と言うと強烈に咳き込み始めた。

慌てて駆け寄り背中をさすった。背中は冷たく、寝間着越しにも分かるほどに肌も乾燥していた。


「ヘマさん、私はあなたの様子を見に来ました。話に聞いただけでは分かりませんでしたが、どうやら良い状態では無いですね」


「そうなのです」と代わりにアニバルが話し始めた。

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