仮初めの宮中にて 第三十四話
意味があるのかないのか分からない会議の後、クロエがまだ十代にすら見える若いメイドさんに何かを注意していた。
クロエは眉をつり上げ、怒られているメイドさんは肩をがっくりと落としてうなだれて、時折下を向いたまま頷いているのが見ていられずに声を掛けた。
どうやら、いつものマフレナが他の子の失敗のリカバリーに行ってしまい、私を部屋まで送り届ける仕事をその若いメイドさんに任せたらしいのだ。
クロエは任せられないと怒っていたが、生憎クロエはその日予定があるらしく、すぐにここを発たなければいけないそうなのだ。
他の四省長官もヴァジスラフ氏もこちらを見向きもせず勝手にしろと全く興味のない態度だったので、そのメイドさんと戻ることになった。
クロエと別れて廊下に出た後、私はその子に話しかけた。
「あなた、見ない顔ね。新しく入ったの?」
「いえ、これまでは厨房と倉庫担当だったのですが急遽入れ替わってくれとマフレナさんから言われまして、厨房と倉庫以外はあまり知らないので迷子になってしまうかもしれません」
しばらく、そのおどおどしているメイドさんの後に付いて宮廷内を歩いていると「お部屋は、えーっと、こちらでした……っけ?」と私たちの部屋とは真反対に位置する部屋の前に案内された。
だが、こちらが違うと指摘するよりも前に部屋のドアをノックして開けた。
自分たちの部屋であり、不在であることも分かっているにもかかわらずノックをしたことに違和感を覚えた。
中に入ると部屋は私たちのものよりも狭かった。
奥にはベッドがあり、誰かがそこで横たわっている。それを見守るように大柄の男が隣の椅子に掛けていた。
ドアの抜けた先にその二人の姿を見ると、ウリヤちゃんは肩を上げ髪を逆立てた。「おばさま! ゴリラ! 無事だったのね!」と二人に向かって脇目も振らずに真っ直ぐ駆け出した。
ここはアニバルとヘマさんの部屋だったのだ。
迷子になっていたメイドさんは閉まり始めたドアの隙間からするりと部屋に入り込むと、態度を一変させて無言無表情になりドアの隅で佇んだ。
時折、横目でドアの外を警戒している。これまでの自信の無い態度と迷子は全て演技だったようだ。
クロエの説教もまさか――。
久しぶりの再会に抑えられなくなったのか、ウリヤちゃんは飛びつくようにベッドの上のヘマさんに抱きついたのだ。
アニバルはそれを止めようと椅子から立ち上がり、ウリヤちゃんの肩に手を置いた。
「ウリヤ、奥様は体調が良くないんだ。あまり刺激をしないでくれ」
ウリヤちゃんはアニバルの制止を聞かずに「うるさい。ゴリラ! ずっと会えなかったんだから」と言ってヘマさんの身体に顔を埋めた。




