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仮初めの宮中にて 第三十二話

「いえ、絶対に出来ないというわけではないのです。

 現在、この仮王宮で働くメイドは全員がエルフ。もはや本能のレベルで皇帝であるルーア一族に対して絶対的な畏怖を抱いています。

 皇帝の命とあらば動くのは当然の行動なのですが、やはりどうやって協力して貰うかがネックなのです。

 本当に勅命であるかどうか証明が必要なのです。それさえクリアできれば容易なのですが。

 陛下ご自身が何人かを集めて、探しなさい、と命令するのは顧問団にすぐ勘づかれてしまいます。

 そもそも会話をすること自体本来禁止されていますから」


 困ったような顔をしてそう言った。

 私によって私の命であると証明しなければいけない。しかし、集会は禁止されているし、私はここから出ることが出来ない。

「じゃあ」と言うと私は髪の毛を一本引っ張り抜いた。


 マフレナは私の仕草を見ると「な、何をなさってるんですか!?」と焦った声を上げた。ウリヤちゃんの髪を梳かすのを止めると、私を止めようと右手を掴んできた。


「皇帝となれば髪の毛も重要ってことなんでしょう?

 それならこれで証明しなさい。私が私の手で抜いたのだから問題も無いでしょう?

 あなたはクシフスカ家。みんなもそれを知っている。髪を触れる立場であることが一層その証明になるわ」


 だが、マフレナは首を左右に振って嫌がった。


「こ、このような大事なもの! 私には恐れ多いです!

 皇帝の髪は唯一の紅にして王家の証。玉体に等しく、あなたが思っている以上の意味があります!

 それを、こんな、無下に私なんかに!」


「うーん……、でも持ってるだけじゃダメね。床に落ちたの拾っただけとか言われそうね。そうだ。はい。小指を出して」


 そう言うとマフレナは小指を差し出した。「こっちが利き手ね?」と尋ねると頷いたので、小指に結びつけた。

 マフレナは振り払うことも出来ず為すがままにされて困惑している。小指と私の顔を交互に見てあわあわと声にならない声を上げている。


「いくら器用でも自分の利き手の小指に紅い髪の毛を結びつけるのは難しいわよね。

 あなた以外誰も触れないこれを他に触れるのは、髪の毛を持つ本人だけでしょう?

 これで私自身があなたの小指に結びつけたことの証明に出来るはず。

 ちょっと無理矢理かしら。でもお願いできるかしら?」


 少し無理矢理だったが、これでもうやらざるを得ない。マフレナは面倒だからやりたくないのではなさそうだ。

 この子は信頼できるので任せられる。私はそう思ったからこそ、意味のある髪の毛を彼女の利き手の小指に託したのだ。


 マフレナは何度か戸惑うように小指と私の顔を交互に見つめた後に小指を改めて見ると、顔を精悍にして背筋を伸ばし「かしこまりました」と答えた。

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