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仮初めの宮中にて 第二十五話

 翌日、早朝にクロエが迎えに来た。彼女と共に会議室に入ると、テーブルの端の離れたところに椅子が二つ置かれていた。位置は上座なのだが、顧問団たちの椅子が遠くに離れているのだ。

 クロエは無言でそれをガリガリと、わざと音を立てるように引き摺り顧問団の近くに移動させた。


 会議が始まり、発言があり手を上げても相手にされない。それをクロエやヴァジスラフ氏が無理矢理拾うという昨日同様のやりとりが繰り返された。

 私が意見を述べた内容については全て保留の議論を近々するという決定を出されて、その日の会議も終わった。


 お昼を何も口を利こうとしないウリヤちゃんと共に無言で食べ、クロエやヴァジスラフ氏の持ってくる書類を確認し、歴史の勉強をして過ごした。

 顧問団たちは会議以外の時には姿を見せない。何をしているのかクロエに尋ねると、「さぁ」と冷たく返ってくるだけだった。

 だが、ただ冷たいだけでなく、彼女も本当に何をしているのか知らない様子だった。政治ではないのか?


 予定がなくなると考え事ばかりになる。予定ももとより多くはないので一入だ。

 窓辺のテーブルで冷めたコーヒーを飲みながら、地平線の先に大きく高い雲が浮かぶよく晴れた空を見ていた。

 広いバルコニーの先で陽炎は揺れて、ガラス越しでもちりちりと肌を焼く日を浴びて、ノルデンヴィズでよく鳴いていたハレゼミではない、何か騒がしい蝉時雨が遠くに聞こえている。


 何も出来ない無力な日々が過ぎていき、追い詰められているわけではないが気分が晴れることはなかった。


 情報は遮断されている。

 私一人が顧問団により情報封鎖をされていることもあるが、その状況に加えてそもそも亡命政府機関そのものが情報的に孤立しているのだ。

 亡命政府は周辺諸外国から国家として認められておらず、現時点ではマルタンを不法占拠しているだけの集団であり、マルタン外部の情報を入手するにはカルデロン・デ・コメルティオが物資搬入に紛れさせて秘密裡に持ち込んでいるマリナ・ジャーナルだけと情報入手手段が限りなく少ない。

 入手難易度が高い分、情報の新鮮さもない。


 北公はどうなっているのか。北公と連盟政府の戦線はどうなっているのか。

 イズミさんは何をしているのだろうか。イルマやオスカリは無事なのだろうか。


 変化はないのだろうか。もし、南部戦線で大きな動きがあれば、北公が勝利か、最悪敗北したとしても、この亡命政府にも何かしらの影響が出るはず。

 今のところ、顧問団たちもクロエも相変わらずだ。つまり何も変わっていないのだろう。

 しかし、それを実際目の当たりにしたわけではない。


 思考は繰り返し、最後は変化のないこれまでを取り戻す。

 金床のような形の雲は変わらない。ただ風に流されているだけだ。

 カーテンを静かに揺らす風が湿り、肌に纏わり付くような気がした。雨が降る前の石の匂いも強くなり始めた。

 あの金床はこのまま流れてやがて雨になって消えていくだけだろう。コーヒーを飲み干し、雨が降り出す前にベランダへ続くドアを閉めた。


 しかし、変化は確実に起きていたのだ。

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