仮初めの宮中にて 第二十三話
「血筋だけで国を治められるか?
知識、カリスマ性、その他生まれ持った素質があって帝政ルーアは作り上げられ長く繁栄した。
会ったばかりでそれがあるとは言え、認められない。
尤も、ルーア皇帝はその存在感だけでひれ伏してしまうほどだったが、この子娘にはそれがない」
「お堅い方ですこと。何れにせよ、もう陛下であることに変わりはありません。それに伴ってウリヤ執政官殿も執政官殿とお呼び致します」
「この子はまだ子どもですよ? それは重すぎないでしょうか?」
ウリヤちゃんの扱いになると私は黙っていられなくなってしまう。すかさずクロエに尋ねた。ウリヤちゃんは小首をかしげ伺うように目を開いて、発言した私を見上げている。
「いいえ」とクロエは目をつぶり首を左右に振った。
「ウリヤ執政官殿は執政官殿です。それも決して変更致しません」
ヴァジスラフ氏がふんとまた鼻を鳴らした。
「責任転嫁するときのための防波堤としての役目だけだろう。メレデント民書官の孫娘も不運な星の下に生まれたな。大人の事情に巻き込まれるなど」
「どうとでもおっしゃってください。あなたがなんと言おうと、私はウリヤ執政官を執政官であると認定しています。いずれその意味を思い知るでしょう」
「ここで決まった話でしかない。顧問団たちが従うとは思えないな」
「問題ないですわ。私が陛下を陛下と呼び、執政官を執政官と呼べば、彼らもしたが……自ずとそう呼ぶに決まっていますわ」
クロエは作り笑いではない笑顔を浮かべた。軽く微笑んでいるだけだが、先ほど会議中に見せた不気味な笑顔と同じものだった。
この組織はおかしい。その渦の中心にいるのはクロエだ。ただ組織の中で強気な態度を取っているだけではなく、渦をより強く回そうとしているにも見える。
だが、渦を回しているのは彼女だけではない。
渦の中にいる顧問団たちは渦の流れに乗りつつも、自らもそれに流れを生み出そうと動いている、いや、もがいている。
やがてクロエの生み出した渦とは違う流れを生み出そうともしているのだ。
私は、私とウリヤちゃんはその渦に飲み込まれた小さな魚に過ぎない。
このままその狂った潮流に身を任せること以外に何も出来ないのだろうか。
顧問団たちはクロエに強く出られない。間違った会議の時間を教えるなどしてヴァジスラフ氏をのけ者にしようとしている。
だが、その最高位と最低位という対極に位置するクロエとヴァジスラフ氏には見解の一致が見える。
私とウリヤちゃんを会議に参加させようとするという扱いはおそらく一致している。
だが、それ以外にも二人の間で明確な意思疎通をしてはいない何かにおいての一致もあるように覗える。




