仮初めの宮中にて 第二十二話
「顧問団たちはアニエス陛下、ウリヤ執政官殿だけでなく、あなたさえも権力機構からの除外を画策しています。
私は色々と世話になっており、顧問団たちとは絶えず非常に友好的な関係でありますので、誤った時間を伝えられることはありません」
「……何が非常に友好的だ」
氏は眼瞼を震わせぼやいた。組んでいた腕をほどくと姿勢を直すように椅子に座り直した。
気を取り直すように鼻から息を吸い込むと
「だが、確かにそうだ。顧問団たちは私を排除しようとしている。これまでの経緯から考えれば貴様もそうなのではないのか?」
とクロエに尋ね返した。
試すように尋ねられたクロエは考え込むように首を傾ける素振りを見せて、うーん、高い声で喉を鳴らすと、
「実は、今はかつてほどそうはないですね。
その一方で、現時点ではあなたと私は少なからず、あの顧問団たちとは異なり、意見の一致も不一致も無いようなので。
とにかく、朝にアニエスさんをお迎えに上がるのは私にお任せください」
と微笑みかけた。
ヴァジスラフ氏は不服だが異存なし、と頷くだけだった。
話が途切れ部屋が静まりかえったので話は終わりかと思ったが「さて、もう一つ」とクロエはにっこり笑い話を切り出した。
「私はいつまでもアニエスさんをさん付けで呼ぶのは失礼かと思います。
呼び方にも揺れがあるのは私としても気に食わないので、これからはアニエス陛下とお呼び致します。
先ほどから呼んでいるのでお気づきかとは思いますが。素晴らしい提案だと思いませんか?」
クロエはヴァジスラフ氏を目を細めて見つめた。しかし、その中に会議中に顧問団たちにしていたような強要する態度は全く見えない。
「私はこの女を認めていない。髪色はルーア一族の紅だが、血筋だけで判断するなど。本当に末裔なのかも怪しい。だが、陛下を陛下と呼ぶことに異存は無い」
「まだ信じておられないのですね」とクロエは笑顔のまま仕方なさそうに息を吐き出した。
「アニエス陛下は移動魔法が使えるのですよ? 私がこの目で見たと何度も」
「時空系魔法は確かに王家縁の秘技。詐称することなど不可能。私自身も具体的な話は数々聞かせて貰っている。だから、ここで見せろなどとは言わない。だが」
氏は一度話を止めると、私の方を顎を引き気味に睨め付けてきた。




