仮初めの宮中にて 第二十一話
「会議には今日のように私が案内させていただく。それからウリヤ執政官殿と同じ部屋で寝泊まりしていただく。その方が両者が揃って参加する確実性があるからな。手間の問題ではない。確実に参加してもらうにはそうしなければいけない」
「そうですね」とクロエは何度か小さく頷いたあとに「アニエスさん、よろしいですね?」と尋ねてきた。
「私は構いませんが、この子はどうなのですか?」
「(執政官殿、アニエス女史と部屋を同じにするがいいですね)」とヴァジスラフ氏が通訳すると、ウリヤちゃんはふんと首を背けた。同じ部屋で寝泊まりすることに万歳三唱で喜ぶとは思わなかったが、前向きな反応ではなかった。しかし、これまで見てきたイヤイヤ反応とは少し違っていた。おそらく文句はないのだろう。
「この様子なら……大丈夫でしょうね。私もエノレアでは寮暮らしでしたし、女二人なら問題ないです」
「決まりですね。もとより、あのギヴァルシュ政治顧問がそれはお決めになっていたので変えようもないのですが。当人たちの了解が得られたので、以降、顧問団の判断によっての変更は不可能となりました、と私の方からお伝えしておきますわ」
縛り付けるような物言いだ。だが、むしろクロエが顧問団たちのことを押さえ付けているような言い方だ。
「ああ、それから」とクロエは何かを思い出したように両目を開いた。
「ヴァジスラフさん、呼びに行くのはあなたではなく私が伺います」
ヴァジスラフ氏は「なぜ連盟政府の回し者がそのようなことをするのだ。何を企んでいる?」と怪しんだ。氏の表情を見るとクロエはクスクスと笑った。
「企みについてどれをお伝えするのが正しいのかしら。山ほどありますの。私、連盟政府の諜報部ですから。それは置いておいて、今日あなたは会議に遅れましたね」
クロエは笑うのを止めると、上目遣いで試すように氏を見つめた。
見つめられた氏は気まずさを隠す為に腕を組むと「遅れてはいない。時間が違ったのだ」と目をつぶった。
「それが問題なのですよ。あなたは間違った会議の時間を伝えられていたというのがどういうことか、おわかりですか?」
氏はうっと息をのんで黙った。
会議に参加させない為に顧問団たちが仕掛けたのだろう。今朝方、私に教育を施さないことを一方的に決定通知してきた彼らならやりかねない。




