仮初めの宮中にて 第二十話
会議が終わると顧問団たちはすぐに会議室を後にした。それに続くようにメイドたちも頭を下げて部屋を後にした。
明日は来るな、あれはするなこれはするな、という顧問団たちから行動への指図が出され、それに覆い被せるようなクロエやヴァジスラフ氏の押し問答が始まるかと思いきや、顧問団たちはそそくさと帰ってしまった。
部屋にはウリヤちゃん、ヴァジスラフ氏、クロエ、そして私の四人だけが残されると、会議の余韻を全く残さない静寂が訪れた。
クロエはまとめた書類をテーブルに打ち付ける音を立てながら小さくため息をついている。ヴァジスラフ氏は相変わらず腕を組んだまま目をつぶり、席に腰掛けたままだ。
会議で顧問団たちに横やりを入れたり遮ったりを繰り返した二人がこうして残っているのだ。何か言いたいことでもあるのだろう。
ウリヤちゃんはそれを察してか、視線だけを動かしてクロエとヴァジスラフ氏を交互に睨みつけている。
沈黙に耐えきれずに、あの、と声を出そうとした。そこへ「お疲れ様でした。さて、会議の初日はどうでしたか?」とクロエが尋ねてきた。
「出るのが当たり前のような言い方をしているわりに、なぜ貴様は呼びに行かなかった?」
私が答えるよりも先にヴァジスラフ氏がクロエを睨みつけ脅すように言った。
「これは失礼。確かにヴァジスラフ氏、あなたがアニエスさんを呼びに行かなければ、会議に参加することはできなかったでしょうね」
ヴァジスラフ氏はふんと鼻を鳴らした。
「白々しい。貴様も顧問団たちと同じだろうが」
氏の言葉にクロエは困ったような顔をした。
「それは心外ですね。あのような連中と同じにされては困りますわ。
昨日ここまでお連れした際に、足や枝が付かないようにだいぶあちこち振り回したので、一日休んでいただこうと思いましたの」
「あの、お二人で話を進められても私はいつまでも置いてけぼりなのですが?」
「これは失礼しましたわ。亡命政府の内部も些か混沌としていましてね」
「誰が引っかき回したと思っているんだ……」とヴァジスラフ氏が呟いた。
クロエは無視して「この場で簡単にお話しするのは難しいのですよ」と言った。そして、視線を左右にチラチラと動かし、ドアや窓の方を探るように見た。
何かに警戒しているようだ。あえて視線の動きを私に見せて、自分が警戒していることを伝えようともしている。
「これから会議には全て参加していただくつもりなので、時期に分かるようになるでしょう。もちろん、ウリヤ執政官殿もですよ」
ウリヤちゃんは渋い顔をした。だが、それを隠そうとしているように堪えて無反応を貫いた。
ヴァジスラフ氏が「(ウリヤ執政官殿も会議には参加するのです)」とエノクミア語で訳すとウリヤちゃんは反応を大きくした。
クロエはそれを黙ったまま見つめていた。




