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仮初めの宮中にて 第十六話

「ルクヴルール軍事顧問……」と上ずった声で名前を呼んだ。自らを落ち着かせるように一度目をつぶりふむと喉を鳴らした。


「あぁ、控えめに言わせていただきますね。私は諜報部員なのにおしゃべりで、馬鹿みたいにべらべら喋ってしまうんです。それでしばしば言いすぎるときがあるので。それで、控えめに言って、あなたが今仰ったことが私には一体何なのか、理解しかねますね。どういった理論で物事を考えればそのような結論に至るのか、全く分かりません。それとも、何か高尚で良く出来た理論でもあるのなら、ご高説賜りたいですわ。何分、不勉強なもので。

まずは情報を整理致しましょう。私がしたことをまずお話ししますね。

私が連れてきてのはアニエスさん、本名アニエス・オルゥジオ・パラディソ・モギレフスキー。北の大英雄たるアルフレッド・モギレフスキーと最後の占星術師ダリダ・オルゥジオ・センツァ・フェリタロッサが一人娘にして、稀代の魔法使い。正統なる王家であるルーア家の分家のフェルタロス家末裔。分家とは言え、発現が隔世や先祖返りのような不確定なものではなく、確実に次世代に発現継承する時空系魔法の血統。そこに北公などという言葉は一言も入っておりません。そもそものお話ですが、私たち連盟政府は北公を国家などと認めた覚えはありません。国を国たらしめるのは他国の承認。他があり認めて初めて国となるのです。この世界に存在する国は二つ。連盟政府とルーア共和国のみ。在りもしない国の承認を期待するなど、意味不明。

ですが、そうですね。今の言葉、反乱者カルル・ベスパロワの前で言ってみなさい。彼でさえも激怒するでしょうね」


ルクヴルール軍事顧問は黙り込んでしまった。


クロエは細めていた目を僅かに開き、顎を上げて「よろしいですね?」と念を押すように確かめた。首を回して机全体を見回すと、ルクヴルール軍事顧問だけでなく誰も何も言わなくなった。

ギヴァルシュ政治顧問、ルクヴルール軍事顧問、アブソロン金融顧問、フィツェク法律顧問、誰一人反応をしようとしなかった。その中で唯一、ヴァジスラフ氏は不服そうな顔をしながらも一度だけ頷いた。


クロエは反応など気にもしていない。もとよりその程度の反応しかしないというのは分かりきっているようにも見える。


「ご理解いただけたようで何より。私たち連盟政府一同はこれからもやがて皇帝と執政官によって治められる偉大な国、ルーア帝国となるここといつまでも良好な関係を維持していきたいですわ。今はまだ亡命政府という小さな萌芽ですが、やがてかつての帝政ルーアの歴史を継ぐ大樹となるまでお見守りいたします」


そういいながら両手を開き見せつけるように前に出した。


「この手で」


背後の窓から差し込む逆行で光る眼鏡越しの表情には微笑みが溢れているが、唇から僅かに覗く白い歯は不気味に光り、どこか悪辣で跡形がなくなるまで食い尽くす捕食者の嗤いにしか見えなかった。


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