仮初めの宮中にて 第十三話
これ以上は会議が空転してしまう。さすがに私が皇帝であり、ウリヤちゃんが執政官であっても許されるわけがない。それで話をひたすらに傾けることにした。しかし、その不完全な資料も一部しかないので側に来たメイドさんに耳打ちをして「ウリヤちゃんの分はないのですか」とこっそり尋ねると、またしてもそこにギヴァルシュ政治顧問が割り込んできた。
「ウリヤちゃんにはまだ難しい内容ではないでしょうか? こうして何度も会議を遮られては困りますわ」
もはや仕方ない。これ以上は本当に会議の妨害でしかない。そう諦めて二人で一緒に見ようと椅子をウリヤちゃんに近づけようとすると「いえ、必要でしょうね。もう一部、ウリヤ執政官殿に渡していただけますか?」とクロエが言ったのだ。
「申し訳ございません。もう予備もありません」とメイドさんが申し訳なさそうに頭を下げた。するとギヴァルシュ政治顧問は満足げに笑顔になり、「あらー残念ね。しっかりしてちょうだい。でも、それでは仕方がありませんね」と言った。
私はウリヤちゃんに椅子を寄せて二人の中間に置いた。ウリヤちゃんも分からないなりに参加しようと、覗き込んできた。
誰かが何かを言えば、それは違うと誰かが遮る。会議と言えばそれは話合いであり、お互いの意見のすりあわせの場でもあるので、当然かもしれない。
だが、まだ議題すら聞いていないのにもかかわらず、空転に次ぐ空転。
この会議は何かおかしい。いや、会議がおかしいのではなく、この組織そのものがおかしい。
「まず、宣言の日程ですが再来週を予定しております。具体的な日時は決めるとして、それを共和国やユニオンには予め伝えようと思います」
宣言とは何か、そう思い資料を読んだ。何ページも欠けていたが辛うじて貰うことが出来た内の一枚には“皇帝としての戴冠式の前に公衆および全世界に向けて皇帝であると宣言する”という文言が見えた。一体誰がするのかと思いさらに読み進めると私の名前が書かれていたのだ。私はそのためにここに入ったのだが、このような話は一切聞かされていなかった。
「宣言内容は我々顧問団で考えた内容を読んでいただくとして、万が一の際に備える必要があると思います。例えば、そうですね。録音したものを予め作っておく、等でしょうね」
知っていて当然のことのように話を進めているが、もはや空転覚悟で私は手を上げた。しかし、それをギヴァルシュ政治顧問はちらりとこちらを見たが、何も見ていないかのように無視をして話を続けた。
ヴァジスラフ氏はそれをまたしても遮った。
「どうしましたのかね、アニエス氏? 何か、大事な質問がおありな様子だが」




